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建築知識 6月号 めざせCMの達人〜第1回〜
  多くの専門工事業者を用いた住宅

 
       めざせCMの達人
住宅コスト大公開
文=桐山貞善現代設計事務所

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多くの専門工事業者を用いた住宅

 

写真 全国各地に広まりつつある住宅版分離発注(CM)。本連載では、気になる住宅のコストを地域別、構造別に大公開していく。第1回は岐阜から、現場吹付けによる断熱工法と内外装左官工事などで多くの専門業者を使った事例を解説する。

■数多くの専門工事業者に依頼


 私の事務所がある岐阜県大垣市では、今も施主が各専門工事業者に直接依頼して家をつくる習慣があり、分離発注もそれと同様に考える向きがある。そのため、施主の理解度が高い地域であると思う。
 建築資金の調達には、支払いを延ばすことで余分な経費を使わないよう支払い予定表をつくっている。また、工事中に見積りや発注のミスが起きると、費用の出どころがないので、別途工事費の2%程度を予備費として預かり、工事している。
 この方式を6年前に始めたが、施主から直接の支払いなので、当初は職人は給与支払いに専門工事業者は債権回収に対し、それぞれ不安があったようだが、約10棟経験し、不安は解消されつつある。
 業者選択の注意点は、ほとんどの専門工事業者が建設会社の下請けになり、見積りができない業者もあることである。私の事務所では完成後の対応を優先し、各専門工事業者を数社に絞っている。
 設計期間が長くなると、施主の要望が増え、予算を上回るので、見積り後も再度図面の納まりを確認しながら各業者と予算調整する。そのうえで最終契約金額を決定している。打合せ回数を増やせば、施主の要望が反映され、追加や変更が少なくなる。

■T邸設計のポイント


 施主の姉夫婦が分離発注で住宅を建設したことがあったので、事前のシステムへの認知度は高かったが、打合せは10ヵ月に及び、毎回3〜4時間ほどかかった。プランでは、敷地の日当たりが悪いため、庭がとれず、2階をリビングとダイニングに、1階を夫婦の寝室と子供室とした。西側が道路なので、変形した敷地に合わせ長方形の平面をつくり、1枚の左官仕上げの壁を立ててデザインしている。なお、施主の資金の借入れは銀行の住宅ローンで対処した。

■予期せぬ工事中のトラブル


 分離発注では、設計者が工事管理するので、現場でのトラブルが多い。今回の物件では以下の5点であった。
(1)近隣住民とのトラブル
 敷地の風が強く、ごみが隣地の駐車場に飛び散り、ほこりも隣地居住者の洗濯物に飛び、お詫び回りした。
(2)施工環境のトラブル
 進入路が狭く、材料搬入時に、有線放送のケーブルを切断してしまったうえ、2階部分が電線と干渉し、外部足場なしの施工となった。
(3)資材管理上のトラブル
 主構造に、構造用集成材を使用し、プレカットとしたが、小屋部分が斜めのため、別途手加工としたり、建て方前日に部材が足りず、急いで手配したこともあった。さらに、イソシアネートと高分子樹脂吹付けで責任施行の「アイシネン断熱工法」 (ケイジー・シーピー本部)を使用したので、化粧柱の養生に手間取り、サービス工事とした。
(4)施工手順のトラブル
 クロス+珪藻土仕上げの部屋では、珪藻土を先に塗り、養生をしクロスを張ったので、順序の問題により養生費がかかった。
(5)納まりのトラブル
 シーリング工事が見積りミスで発注されておらず、予備費で支払った。また、電気式床暖房パネルと梁天端の金物が当たりパネルに隙間をあけた。
 分離発注では管理者=設計者のため、1日おきで現場に行った。そのため、活動範囲は片道1時間程度となる。実際、竣工間際は毎日現場にいることが多い。
 今回は、多くの業者に仕事を発注したので、工事管理をする際に、それぞれの工事で以上の問題が発生した。だが、最終契約金額の綿密な打合せで、問題を克服し、コストダウンが可能となったと思う。


CM達人column
住宅版分離発注の現状と課題
文:山中省吾
住宅版CM/分離発注の胎動

 住宅版の分離発注は、かなり以前から行われていたが、その数は極めて少なかった。
 それがCMといえるかは別にしても、あくまで住宅建設の例外でしかなかった。あるときは、厳しい予算の工事を実現させるために、設計者が奥の手として用いた。また、あるときは、現場監督が自分の家をつくる際のとっておきの方式として用いてきた。この方式は、長い間建築業界から認知されることはなかったが、住宅建築の有力な方式であることを当事者たちは知っていた。
 世の動きとして、住宅版分離発注の胎動のきざしが見られたのは1996年のことであろう。(社)日本建築学会のPM/CM特別研究委員会で、わが国における先進事例として取り上げられたのである。大規模建築だけに目を向けていたCMが、住宅建築にも有効ではないかと初めて着目されたのである。さらに、建設省(当時)の外郭団体である(財)建設経済研究所や(社)日本建築家協会などでも、相次いで研究が始まった。
 このような動きをいち早く察知して行動に移したのは、主に小規模の設計事務所だった。日ごろから建築業界に対して矛盾を感じていた設計者にとっては、まさに「わが意を得たり」の感があったのだろう。こうして住宅版の分離発注方式は、設計事務所が中心となって実践し、ようやく広がりを見せ始めたのである。
 私が主宰する「オープンシステム・ネットワーク会議(通称オープンネット)」は、1999年55棟、'00年93棟、'01年190棟、'02年345棟の施工実績をもつ設計事務所のネットワークである。オープンネットを例にとっても、世紀の変わり目を境に着工数が急増した。同様に、分離発注による住宅着工数の全体像は掴めないが、おそらく同じように増加していると思われる。
 時の熟成を待って現れたのか、時代の要請なのか。あるいは、建築業界変革期の単なる流行なのか。
 全国各地で多くの分離発注による事例に接してきた筆者の目には、前者でもあり後者でもあるように映る。住宅版分離発注の多くは、設計事務所が設計、積算、施工のすべてを統括する仕組みだけに、家づくりが成功するかどうかは、設計者の力量次第である。
 次回からは、住宅版CM/分離発注の現状とその問題点、(課題) に言及する。机上の学問ではなく、現実に起きた生きた教材として。設計者の力量がどのように結果に反映するか。知識や経験の不足をどのように補うか。リスク要因とその度会いは…。
 ちょっとした意識のずれが、抜き差しならないトラブルに発展することもあれば、誠実な対応で大きな喜びを生むこともある。その違いはあまりにも大きい。すべての知識や経験を身に付けるのは不可能である。結局大事なのは、必要なときに知識をいつでも引き出せることと、持続的なスキルアップであると思う。

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株式会社エクスナレッジ
建築知識編集部
TEL:03-3403-1381/FAX:03-3403-1345

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