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「CCI」 2005年4月号・・・建築士の卵とのコラボレーション物件 A
  施主と先生との出会い〜プランニング/鰍ンずほ建築事務所 所長 山田 雄一 氏

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続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜

建築士の卵とのコラボレーション物件 A

施主と先生との出会い〜プランニング


寄稿
鰍ンずほ建築事務所 所長
山田 雄一 氏
 前号では、石川高専建築学科との出会い〜各種共同事業について概要を述べた。この号からは、いよいよ本当の仕事を通して、実際に一緒に学生とコラボレーションした物件の話をしていきたいと思う。


●熱い思いをもった施主との出会い

 日本海側のとある地域に、家に対してすごい情熱をもった方がおられた。この方をHさんと呼ぶことにしよう。このHさん、自分の住んでいる地区の近くに、古い木造2階建ての小学校が移築されていた建物を見つけ、なんとそれを買い取り、もう一度自分の土地に移築して納屋として使用していた。納屋の2階建てといっても、もとが小学校なので、階高は高く面積も大きい。この大きな建築物を、なにがなんでも住宅にして自分は住むのだ!という強い決意を持っており、それから数年が経っていた…。

 そしてHさんの決断の時はきた。ついに、この大きな建物を本当に住宅にする決意を固めた。手始めに、まず地元の大工さんに相談したらしい。階高も高く、構造材をかなり補強する手間もかかるため、「坪70〜80万円はかかるな。」と言われたそうで、単純な掛け算で総額が1億円近くになってしまう…。さすがにこれには驚いてしまい、なんとか方法はないかと考えた。その他の工務店等にも聞いたが、Hさんの強い思いを理解してくれないこともあり、どこの会社も「壊して立て替えた方が経済的すよ。」という回答だった…。

 普通に考えればそれが正しいと思えることも事実である。しかし、それではスクラップ&ビルドの高度成長期の考えから成長していないわけで、このHさんの強い思い、これからの地球環境のことを考えて、結果的にこの建物を改装することに私は踏み切ったのである。

 Hさんは、はたして誰に頼んで、この大きな建物を住宅にすればいいのか悩んでいた。ある日、Hさんの頭の中に考えが浮かんだのである。(そうだ!甥っ子が石川高専の建築学科に行っているぞ!彼から学校の先生に頼めないだろうか…。そして学校の教材にも使ってもらえれば学生の勉強にもなるし、そんな先生は存在しないだろうか‥)
 早速、甥っ子に相談し当時の学科主任の意匠系の先生に話は伝わった。この先生もHさんに負けないくらいの情熱的な先生である。この先生をM先生と呼ぶことにしよう。M先生はすぐさまHさんに会い、様々な会話を交わした後で、「よし、やってみましょう!」ということになった。M先生は日頃から、独法化される高専や大学が生き残っていくためには、本当の仕事を体験しての教育、外部のプロの建築家との提携等が必要だと考えられており、その具体的手法を模索していた。
 その第一弾として相応しいであろう事業だ!と直感的にM先生は感じたのである。さてそれからM先生は構造の先生と一緒に現地を見た。「なんだ、この構造は!」Hさんに聞くと、数年前の台風で内部に強風が入り込み、建物が少し傾いたらしい…。その補強のために地元の大工さんに頼み、応急的に斜め材で補強しなんとか崩れずに原型を保っている状態であった。また、筋交材等は途中で継いであるものや、寸足らずで他の部材を打ち込んであるもの等、交換するものばかりであった。柱材、屋根の合掌は立派なものであったが、2階の床組みにいたっては何をどうすればこうなるの?という感じの複雑な、近くにあったものを使って適当に床組みしたというものであった。

 今回、改修をしていなければ、台風や地震が例年より多かった昨年、崩壊してしまったであろうことは容易に想像できる。
 M先生の創造性は素晴らしいものなので、このような建物状況にもかかわらず、創作意欲はどんどん沸いてきた。構造の先生もヤル気が出てきた。しかし、予算の関係もあり、殆どの工務店、大工が実質やらないと言っている状況で、現場をどうすすめればいいのだろう?M先生は悩んだ。「高専OBで誰かいないであろうか…。」

 そこで思いついたのが私であった。M先生は「山田君は確か設計事務所だけど、CM方式で家を建てていると言っていたな。地元のテレビや新聞にも出ていたはずだ。彼ならなんとかしてくれるかもしれない。学生にも同窓会や建築士会の活動を通じて知られているし、彼に打診してみよう。」

 ある春の同窓会主催のバーベキューの日。M先生も出席していた。私の近くに来られ、「山田さん、ちょっと面白い事があるのだけど今度ゆっくり相談しませんか?」
 私には内容がよく見えなかったのだが、日ごろからM先生とは親しくさせていただいているので、「分かりました。今度、学校に行きます。」と約束した。
 数日後、私は学校に行き、M先生に概要を聞いた。私は、「とりあえず現地を見に行きましょう。」と言った。
 
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●学生とのコラボレーションスタート!!

 数日後、M先生、構造の先生、学生、私と事務所のスタッフで現場に集合した。
 学生さんと当事務所のスタッフは、それぞれ現況図用に敷地や現状建物を実測し、現況写真を撮ったりした。私はM先生とHさんとで、いろいろなことを打ち合わせた。とりあえず前向きに進めるという前提で、私の事務所と学校側とで協力してプランを考え、後日提案するということでその日は終わった。

 数日後、M先生と打ち合わせをした。共通の認識として、現状の延床面積が大きすぎるので3世帯住宅といえど面積を減少させる必要があるということ。現状の建物の構造から考えると合掌の屋根のダイナミックさを表現し、なおかつ耐震上強固なものとしつつも中央に吹抜けを作り延床面積を減少させるということで概要はまとまった。その間、並行して学生には設計条件を与え自由にブランニンクしてもらった。学生の中には素晴らしいアイディアもあるが、総予算、耐震性を考えると実現不可能なものもあった。しかし、学生の案をあからさまに否定しても大人気ない。事務所の案、学生さんグループでM先生のチェックを受けた案を、総合していいプランにするように心がけた。

 実際問題として学生さんのプランでは、現状の柱や梁等を無視してのプランが多かったので、M先生と構造の先生と私で相談しなから、不可能な理由を学生に説明しつつ、プランを合作という形で練り上げていった。新築であれば多少の独創的なプランも可能ではあるが、このような改修の場合、既存の建物の構造材をどう生かし、同時に予算面も考慮しながら進めなければならない。そういえば自分が学生のときにも改修の設計なんて授業はなかったし、教えてもらってないなーと思った。そういう意味では学生にはすごくいい勉強になったと思う。

 吹抜けを作る関係上ますます耐震補強が必要となってくる。この倒れそうな建物の補強についてはM先生、構造の先生、私とで内容を固めた。簡単に言うと、既存建物の4つのコーナー部分を鉄筋コンクリートの耐震壁で外側から補強するというもので、それを意匠デザインとして真四角の総2階の建物に変化を持たせることにした。既存の柱や梁とは、鉄筋コンクリートの壁とボルトでつなぎ、耐震性を持たせるというものである。幸い地盤は良好だったので、補強鉄筋コンクリートの壁の基礎に杭や地盤改良は必要なかった。
 
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●施主へのプレゼンテーション

 いよいよHさんにプランを説明する日がやってきた。場所は学校の製図室。スタディ模型を学生に作ってもらい、プラン図面と一緒にHさんご夫婦に説明した。また構造の先生には、既存の軸組み模型を作ってもらった。勉強の意味もあるので、まず学生にプレゼンテーションをしてもらい、補足説明をM先生と私の二人でするというスタイルをとった。
 概略プランとしては、概ねHさんご夫婦には了承していただいた。耐震性を大変気にされていたので、鉄筋コンクリート補強壁は喜んでおられた。
 Hさんは満足していた。しかし、このような大胆で耐震性の高いプランでは、地元大工さんが言っていた工事費よりもっとかかるのではないか?
 このとき、既に私はオープンシステムで分離発注による家づくりを10棟以上を経験していた。このような大きな改修は初めてであるが、直感的に予算内でいけると思っていた。私はHさんに、このとき初めて分離発注、すなわちオープンシステムの概要を説明した。

 頭の回転の速いHさんは、概ね理解してくれた。またM先生は自宅を作るときに、自分で分離発注のような手法で新築しており、その良さを実感しているのでM先生も補足説明してくれた。
 この第一回目のプレゼンテーション、帰り際にHさんの奥様が、「山田さんて、以前地元の雑誌かなんかに掲載されてましたよね。今日は会えて嬉しかったです。」と言われた。それである程度の信頼を持ってくれたわけだから、(なんでも出ておくもんだな−…。)と私は思った。学生の手前、ちょっとは尊敬されたかな?と有頂天気味の私であった…。

 この後、基本設計を開始するに前に、構造の先生が作ってくれた現状軸組み模型を現地にもって行き、オープンシステムに参加してくれている大工さんの棟梁を交えて、実際の補強方法や梁の架け替え、移設方法、吹抜け空間の作成順序を、皆で打ち合わせた。
 百戦錬磨の棟梁も、この建物には暫く考え込んでいた。しかし次の瞬間、
「面白そうだ!ぜひやってみたい!」

 こういう前向きなプラス思考の人を、私は大好きである。そうなれば、棟梁もいろいろアイディアが飛び出してくる。学生も建築学科といえど、日ごろはあまり付き合いのない、見た目怖い棟梁と話せるのが実に楽しそうである。棟梁も自分の息子や娘みたいな年代の若者と話せるのが嬉しそうに見えた。
 これらが我々建築士が実現できる、「本当の教育」なのかもしれない、と私は感じた。


 次回5月号は、オープンシステムの山中代表がオープンシステムで全国展開しているCPD(継続教育制度)について詳しく述べる。6月号でこのコラボレーションの続編で、いよいよ学生との設計業務についての話をしていきたいと思う。
 
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DATA
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山田 雄一(38歳)
鰍ンずほ建築事務所 所長
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■プロフィール
1967年 石川県金沢市生まれ。
国立石川工業専門学校 建築学科卒業。
(社)石川県建築士会青年委員長、
建築士会東海北陸ブロック青年建築士協議会運営委員、
(社)日本建築士会連合会青年委員を歴任。
現在、(社)石川県建築士会青年委員会相談役、
まちづくり委員会副委員長。
(社)日本建築家協会正会員。
オープンシステムネットワーク全国会議北陸代表幹事。
石川工業高等専門学校建築学科同窓会「ほおづえ会」副会長。
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■連絡先
鰍ンずほ建築事務所
石川県金沢市諸江町中丁303

TEL:076-237-3286
FAX:076-238-9693
E-mail:mizuho@spacelan.ne.jp
URL:http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/hokuriku/ishikawa/mizuho/
 
 
【過去のCCI 】 2005年2月号2005年3月号
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