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「CCI」 2005年7月号・・・建築士の卵とのコラボレーション物件 C
  積算業務、専門工事業者との契約会/鰍ンずほ建築事務所 所長 山田 雄一 氏

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続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜

建築士の卵とのコラボレーション物件 C

積算業務、専門工事業者との契約会


寄稿
鰍ンずほ建築事務所 所長
山田 雄一 氏
 前号では、「高専生との設計業務」について述べた。今回は、実施設計終了後からの積算業務・見積り集計業務、順序良く進めるための工程の考え方、施主・専門工事業者との契約会等の話をしていきたいと思う。

●積算業務

 当事務所での10棟以上のオープンシステムの実績の蓄積データにより、ある程度の概算は比較的簡単にはじき出せた。(プライバシーの問題で、金額関係は明確には紹介できないことをお許し願いたい。)

 オープンシステムでは、通常は数社の見積りを専門工事業者ごとに徴収し、その専門工事業者の実績や価格等を考えて、最終的には施主と相談し決定していくことになる。だいたい専門工事業者は20業種くらいになり、それぞれ2〜3社の見積りを徴収するので、50社〜60社の見積りを依頼し、集計・精査しなければならない。どれだけ綿密に図面や特記仕様で区分を明確にしたつもりでも、どうしても各社ごとに見積り抜けや重複する部分が出てくるもので、改修となれば尚更である。見積り全てを、詳細に精査することも我々の仕事である。今まで積算ポケット単価や、物価本等の単価、メーカーの設計事務所向け見積書しか知らなかった建築家は、まずここで「今までの単価の認識はなんだったのだ!」と思うことであろう。私は、たまたま修行のため卒業後すぐに、中堅の東京のゼネコンに勤務し現場監督をしていたので、ある程度は認識していたが・・・。

 先日の休日、自宅で朝刊を見ていると、「価格は透明です!」と言う地元工務店のチラシを発見した。内容を見てみると、〈各専門工事業者の見積書をそのまま施主に見せ、そのほかに工務店の純粋な経費として15パーセント施主から頂戴する。〉という内容のものであった。普通に考えてみれば当然の話であり、今までが不透明すぎたのであろう。しかし粗利益15パーセントでは正直、きついと思うが・・・。多少のバックを各下請けからもらうのであろう事は、憶測ではあるが想像できる。

 オープンシステムでは、もしも専門工事業者からいわゆるバックマージンをとった場合、事実が確認されたら退会処分となる。言わなければ、ばれないのでは?と思われるかもしれないが、この業界、特に大都市以外では、そのような情報は様々なところから集まってくるものである。

 当事務所では、4年前に石川県で第1号となるオープンシステムでの住宅を建築したが、そこに至るまでの一年間は、様々な専門工事業者にオープンシステムを説明し、理解を得ようとしていた。当初は半分くらいの業者が、「で、先生にはどれくらい払えばいいのですか?」と聞かれたものだ。すかさず、「そんな余裕があるのなら、その分を見積りから引くように!天地がひっくり返ろうともバックはもらわない!それをしたら我々は終わりだ!ちゃんと設計監理料を施主からいただいているのだから、心配しなくいい。」と言っていたものだ。今でも施主の親戚や知合い等の専門工事業者等、新規の業者はバックの話をしてくるところも存在する。これは悲しいことだが、ここ最近の日本の建築業界の習慣だったのであろう。

 話を見積り集計・精査に戻そう。各専門工事業者の見積りが集まった。集計、精査作業に1カ月はゆうにかかった。しかし、ここは本来時間をかけるべきところである。見積りを集計し、M先生、Hさんに結果を報告した。また、各専門工事業者選定の理由も述べ、納得していただいた。

 オープンシステムでは、予期せぬ出費を考慮し、予備費なるものを計上することが普通である。今回は、改修のためなおさらこの予備費が必要となってくる。決まりは無いが、当事務所では約2%〜4%を見込む。なにもなければ、施主は当然払わなくてもいいお金である。今回は改修ということで、4%の予備費を見込んだ。また、大工工事(人工のみ)については、この建物・工事の特性上、多少の追加はあるかもしれないことを施主には伝え、了承していただいた。

●工程の考え方

 新築での工程は、比較的簡単である。木造建築物の普通の住宅であれば、設計事務所しか勤務したことがない人でも、工程は理解しやすいと思う。しかし、複雑な改修となると、なかなか工程を把握するのは難しいと思う。正直に言うと結果的には、今回の工事は見込んだ工期より、かなり延長されてしまった。これは、私の監理能力の無さであることは確かであろう。しかし、ほぼ毎日のように現場に出向き、施主と一緒に専門工事業者とも話し合い、納得された上での工期延長だったため、結果的には施主には満足していただいた。また、同敷地内の、他の建物の改修等も次々に追加で頼まれたことにも起因する。(これが商店建築であれば、そうはいかないであろうが・・・。)

 この改修工事で、危険作業回避・工期短縮のため考えたことがある。

 階高が高いので、せっかくある2階の床(吹抜けを作るため、無くなってしまう部分)を有効に使い、先にその2階床部分に足場を組み、合掌部分を仕上げてしまうということである。それで、吹抜けが完成してから、2階の天井部分の下まで足場を組むという事を計画した。結果的には、これが大成功であった。

 以下の事項は、直接的には工期に関係ないが、それをすることにより、結果的に現場での施工を総合的に判断すると作業は簡易になるであろう、と実施設計時から盛り込んだ事項である。

 6月号で述べたが、北面の外壁が外側に傾斜している。大工さんに多少は直してもらうことにはしていたが、完全な垂直に戻すのは不可能であると予想し、その部分には板張り等の外壁はしないこととし、モルタル吹付け仕上げとした。これは壁に垂線が入ると、コーナーで納まりが難しくなるのと、外壁が傾斜しているのを、少しでも見た目にわからなくする為である。また、無理やり外壁を垂直に戻そうとすると建物自体が倒壊する恐れもあったからである。この選択は、結果的には正解であった。

 既存屋根は日本瓦葺きである。瓦のひどいところは改修する予定であったが、軒先の瓦の水平線が一直線になっていないという状況であった。これは瓦で多少は直せるものの、完全には水平一直線にはなることは難しいと判断した。意匠的なこともあり、既存瓦屋根の軒先下に、もう一段屋根を設置することとした。これも結果的には大正解であった。
 
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●専門工事業者契約会

 さて、いよいよ専門工事業者との契約会である。当事務所では昨年より、金沢駅近くのESSEテクノカレッジ金沢という専門学校の教室を借りて、一同に契約会を開催している。その後、施主を交えての懇親会が通例となってきた。この懇親会を開催するかどうかは、施主の判断にお任せしているが、今のところ100%開催しているのが実情である。

 今回は、コラボレーションした高専の学生、M先生、構造の先生にも参加してもらい、総勢50名ほどの壮大な今までにない契約会となった。

 契約会では、施主のご夫婦と私が前に座る。最初に私の挨拶、概要説明、続いて施主からの挨拶というのが通常である。今回は最初にM先生にも挨拶していただいた。

 次に、順番に一社ごとに前に出てきてもらい、施主と挨拶をして契約を交わす。中には、契約という行為自体が慣れてない専門工事業者もいて、戸惑いながらも真剣に感じ取ってくれ、「神聖な場」と思ってくれているようである。今までは特定の工務店等の下で下請けや孫請けをしてきた関係上、契約行為そのものが初めてという専門工事業者も実際にはいる。口約束での契約が殆どという実態である。

 約20の専門工事業者の契約が終わると、お互いに知らない専門工事業者の場合もあるので、自己紹介をしてもらう。なかには、「職人なので話すのは、下手ですが、腕にだけは自身があります!」なんていう自己紹介もあり、皆の笑いを誘う。その後、簡単な工程説明や物件の概要説明をして、通常は終了する。

 今回は、高専の学生も分離発注というものを体で感じてもらうために、携わってくれた学生ほぼ全員に参加していただいた。最後に、せっかく作った模型があるので、それをもとに先生に説明してもらった。学生には、前で一人づつ挨拶をしてもらい、契約会は大盛況のうちに終了した。

 続いて、横にあるホテルのレストランで、施主を囲んでの懇親会である。交通の便も考えて、毎回ここで懇親会を開催している。これが楽しくて嬉しくて、ぜひ参加したい!という専門工事業者さんもいる。下請けの仕事では、その家の施主さんと懇親会を開催するなんて事は皆無に等しい事であり、懇親会に参加することによりより一層、自分のモチベーションも高まってくるようだ。元請の専門工事業者となるわけだから、責任も大きくなるが、やりがいも出てくるし自分の腕を存分に発揮できるということである。

 懇親会には、高専の学生さんにも設計のお手伝いをしてくれたお礼の意味も含め、大勢参加していただいた。僭越ながらも、私の乾杯の音頭で懇親会はスタートした。(当然、学生さんはジュース、ウーロン茶で乾杯)

 専門工事業者さんは、施主に注ぎにくる。そこで談笑が始まり、打ち解けた雰囲気に自然となってくるものである。学生はひたすら食べている、さすがに若い・・・。最後には、大人の残した食べ物も全てたいらげてしまった。あっぱれ、学生の食欲。
 
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―――――コーヒーブレイク―――――

 オープンシステムという分離発注の手法は、確かに建築における一つの手法に過ぎないかもしれない。さらに分離発注というものは、一設計事務所でも実践することは可能である。

 しかし、オープンシステムの会員というのは、日頃から今までの建築業界の不透明な部分に疑問を感じていて、オープンシステムをなんらかの形で知ったとき、「これだ!」という思いで、入会してきた会員が殆どである。また、山中代表の理念に賛同した会員が殆どである。私は常に真剣に、日本の建築業界を変えるつもりで行動している。

 各種法律等、一括請負を前提に出来上がっているものが殆どであり、常に我々は法律等の解釈に四苦八苦している。これから、まだまだ様々な難局を迎えるかもしれないが、現在300社超のオープンシステムが、今後も会員が増えることを前提に、常に前向きに、協力し合い、一丸となって目標に向かって進んでいけば、必ずや世の中に認められる日が来ると私は信じている。

 実際、分離発注というのは業務量も膨大に増え、大変であることも事実である。しかし、それは今まで我々建築家が逃げてきた部分もあると、実務を通して感じている。今まで我々は、現場での都合の悪いことは、ゼネコンや工務店に任せてきた面があることは、誰も否定できないであろう。それでは、本当の意味の建築家にはなれないだろう、と思ってきた今日この頃である。さらに建築士をとりまく環境は、ますます不利になってきていることも事実である。

 分離発注で建築した場合、書類ばかり増えることが建築家としての本来の業務とも思えないので、オープンシステムでは、会員の書類にかかる時間を少しでも減らそうと「業務支援ソフト」なるものを開発した。これは、諸先輩等の作ってきた各種書類を集約したもので、随時更新して現在運営されている。
 

 次回8月号では、いよいよ改修工事スタートである。学生の現場見学他、どのように現場が進んでいったかを、なるべく詳細にお伝えしたいと思うので、9月号まで2回にわたって執筆するかもしれないことを、読者諸氏にはお許し願いたい。


DATA
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山田 雄一(38歳)
鰍ンずほ建築事務所 所長
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■プロフィール
1967年 石川県金沢市生まれ。
国立石川工業専門学校 建築学科卒業。
(社)石川県建築士会青年委員長、
建築士会東海北陸ブロック青年建築士協議会運営委員、
(社)日本建築士会連合会青年委員を歴任。
現在、(社)石川県建築士会青年委員会相談役、
まちづくり委員会副委員長。
(社)日本建築家協会正会員。
オープンシステムネットワーク全国会議北陸代表幹事。
石川工業高等専門学校建築学科同窓会「ほおづえ会」副会長。
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■連絡先
鰍ンずほ建築事務所
石川県金沢市諸江町中丁303

TEL:076-237-3286
FAX:076-238-9693
E-mail:mizuho@spacelan.ne.jp
URL:http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/hokuriku/ishikawa/mizuho/
 
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