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「CCI」 2006年1月号・・・監理と管理
  CM分離発注において、頑ななまでに気を遣っている言葉がある。・・・/(株)本間総合計画 代表取締役 本間 貴史 氏

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続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜

監理と管理

  CM分離発注において、頑ななまでに気を遣っている言葉がある。
  それが、「監理」と「管理」。
  設計者兼CMRとしての立ち位置を左右する重要な言葉である。


寄稿
(株)本間総合計画 代表取締役
本間 貴史 氏
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●立ち位置

 オープンシステムは、CMR(コンストラクション・マネージャー)が純粋にマネジメント業務だけを行うのではない。設計とCMを組み合わせたDM(デザインマネジメント)方式で分離発注する手法である。そこで今回は、設計とCM業務を同時に行う場合、特に我々設計者の立場、立ち位置はどうなっているのかを考えてみたいと思う。

●監理と管理

 「○○の家 新築工事の監督さん、誰だっけ?」分離発注を始めた当初、専門工事業者さんからかかってきたこの電話に閉口したことがある。「それは担当者ということですか・・・・・?」

 工務店を外すということは、設計事務所が工務店の代わりをするものだと考えていた専門工事業者さんがいた。下請けに慣れすぎていた業者さんにとって、そう考えるのは自然なことなのかもしれない。しかしそれは、明らかな誤解である。オープンシステムにおいて、工務店を抜くということはどういうことなのか?

 私はCM分離発注の場合でも工事管理者の立場での『管理』はしていない。あくまでも、監理者としての『工事監理』を行っているつもりである。監理と管理。これを言葉遊びと捉えないで頂きたい。『工事監理』と『工事管理』。読み方は同じでもそれが意味する立場は明確に違う。

 それはまず、契約の違いが挙げられる。設計者が建築主と交わす契約は、建築士業務委託契約(設計・監理業務)である。あくまでも委託であって請負ではない。当然、監理者という立場で工事監理を行っている。一方、工務店が建築主と交わす契約は工事請負契約である。工務店の下には多数の専門工事業者が下請けを担っている。先の工事管理の立場で管理するのは、工務店から派遣されてくる現場監督である。

 オープンシステムの場合は、建築主が直接、各専門工事業者と分割工事請負契約を交わすことになる。つまり直営工事の形態である。ただ、建築の専門知識を持たない建築主が、各専門工事業者と直営工事を進めていくのは難しい為、建築主をサポートする立場にあるのがオープンシステムにおける設計者なのである。

 よって、設計者の立ち位置は従来の設計監理者と何ら変わらない。

 もちろん、工務店のいない現場での『監理』は業務の内容が当然濃くなる。自ら工程表を作成したり、専門工事業者と詳細な打合せを行う必要がある。それは、工務店一括発注の場合の監理と比べ、工事監理のキメが細かくなることだと考えている。

 但し、現場での清掃、資材の搬出入や養生等のいわゆる「スキマ業務」を行うことではない。ましてや職人さんと一緒になって施工を行うことでもない。木造住宅など小規模工事をCM分離発注する場合、人によってはこれらのスキマ業務を行うことがCMRの役目だと錯覚してしまうこともありがちなので気を付けなければならない。

 それでは、工事管理者(現場監督)は誰かという疑問が出るのだが、それは、各元請の専門工事業者が各工事管理者ということになると考えている。それは、各専門工事業者の仕事のキメが細かくなることを意味する。設計者と専門工事業者の互いの業務のキメが細かくなることによってCM分離発注は成立している。

 私は『工事管理』とか『施工管理』とか『監督』という文言を当事務所の業務書式には一切書かないようにしている。手法もピュアCMであり、アットリスク型ではないのだから。ここを曖昧にしてはいけない。

 約300社が参加するオープンシステムネットワーク会議のメーリングリストには、日々、様々な意見交換がなされているが、時折、『施工管理』という言葉が飛び交うことがある。私はその度に違和感を覚えている。この『管理』という言葉を安易に使ってしまうことは、非常に危険なことだからだ。

 それは、我々の立ち位置が工務店の立ち位置へ変わったと周囲に誤解を与え、トラブルの元になりかねないからだ。

 尚、オープンシステムには、登録された建物の工事中の事故に対する備え及び、完成後補償へのバックアップを目的に結成した『オープンシステム建物補償共済会』が存在するが、ここで云う我々の立ち位置も『監理者』であることを付け加えておきたい。
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●初めてのCM分離発注による集合住宅

 ある賃貸住宅のコンペの話が舞い込んできた。場所性、歴史性、そして賃貸というデザインにおける無限の可能性に期待し勝ち取ったこの案件は、当事務所にとって、初めてのCM分離発注による集合住宅だった。今までの木造住宅で行ってきたような概算予算書では、積算の基準・精度に不安があった。そこで、積算の精度を高める為に、積算事務所に積算を依頼し、公の積算基準に基づいて詳細に予算書の作成を行った。

 また、話は変わるが分離発注にとって融資の壁は想像以上に厚く高い。ある銀行に建築主と融資の相談に行ったが、工務店一括発注でなければ融資出来ないと云われた。瑕疵があった場合が大変だと云う。しかし、設計監理者の第三者監理はあるし、施工業者の倒産リスク等も、よく考えれば分離発注の方が金融機関にとっても安全だと思うのだが、なかなか伝わらない。

 保守的な銀行の多い中で、分離発注をきちんと理解した行員のいる銀行は数少なく、貴重である。法人から個人へ顧客層をシフトし始めた流れもあってか少しずつではあるが、風向きが変わってきたのかもしれないが、それでもまだまだ風当たりは強い。結果的には、ある大手都銀が融資してくれることになった。地鎮祭にその銀行の支店長が出席したのには驚いたが、同時にこれから竣工までの重責が強く感じられた。

 この案件の敷地は、かつての国府が置かれていた場所に程近く、歴史的にも重要であった為、史跡調査が行われた。興味深かったのは、市の文化財課が出してきた調査費の見積もりが高かった為、建築主が自ら、史跡調査費用までも分離発注したことである。ユンボの損料、調査委員の休憩プレハブ小屋、仮設トイレ等を分離発注することで調査費用を大幅に削減することが出来た。

 この案件を進めるにあたってひとつだけ迷ったことがある。それは、パッケージングである。パッケージングとは、複数の工種を組み合わせて発注単位、工事発注区分を構成することを云う。躯体工事をどうするか?具体的には型枠、鉄筋、コンクリートや仮設工事等の工種をどうするかということだった。従来の木造住宅であれば、そう難しく考えなくても問題なく実施してきたが、今回はRC造4階建ての打ち放し仕上げを予定していた。ジャンカが出来た場合、コールドジョイントが出来た場合、責任の所在を含めどうするのかという問題があった。リスク管理を考えなければならない上に、先進事例が少なすぎてどれが最善かが解り難かった。少なくとも、建築主のリスクは回避しなければならない。建築主のリスクと自分の能力を考えた末、結論として躯体と仮設工事をひとまとめにして、工務店に担当してもらうことにした。但し、コスト上の不透明さを回避する為、工務店の管理費は一定額で契約し、型枠、鉄筋、コンクリートは複数の業者の見積もり合わせにより決定した。

 この案件の発注説明会には約120社の専門工事業者が集まった。CM分離発注が少しずつではあるが、この地域にも浸透し始めてきた頃であり、彼等にとっても非常に興味深かったのかもしれない。だが、木造住宅系の業者と違って、ビル物系の業者は多少上乗せして入札する慣習を払拭出来なかった。当初、どうしても予算に合わせることが出来ずにいた。しかし事業用(賃貸集合住宅)である以上、工期を延長することは許されない。見切り発車せざるを得なかった。今までの戸建住宅の時とは全く違って、工程に合わせて予算調整しながら業者を決めていった。

 限りなく常駐に近い監理体制をとった現場であったが、現場定例会議は毎回職長を含め20業者くらいの人数が集まる為、現場事務所に入りきらないほどひしめき合っていた。まるで数十億単位の公共工事並みの光景である。

 綱渡りのような思いを繰り返しながら、この案件は無事竣工した。竣工式の模様は宮城県初のCM分離発注による賃貸集合住宅の完成として地元NHKにて放映された。
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●初めての近隣トラブル(木造住宅編)

 分離発注を始めてから、様々な事態に遭遇した。1軒1軒建築主が違うように、浮上する問題も様々である。ある案件では近隣対策に苦労した。

 戸建住宅だというのに、あんなに隣家(一軒のみだが)から苦情が出たのも珍しい。木屑が飛んでくる、音がうるさいと云われ途中でメッシュシートから防音シートに変更した。当然、それは予定外の出費である。工事車両の行き来や駐車にも(敷地境界より半径5m以内に駐停車してはならない等)こと細かく文句を云われ、何度も事務所の電話が鳴り響いた。警察に通報された時はさすがに驚いた。聞けば周囲の他の新築の際も騒いでいた人らしい。工務店のいない現場だから、矛先を向ける相手が定まりにくかったのかもしれないが、建築主も、我々も、職人さん達も毅然とした態度を貫いた。障壁があるほど、竣工の日の感激はひとしおである。この案件は設計段階からずっと地元テレビ局の追跡取材があり、「分離発注という家づくり」として、打合せ風景や発注説明会、竣工引渡し会とその都度紹介されてきた。取材にあたってくれたキャスターも自分のことのように竣工を喜んでくれた。

●無限の可能性

 CM分離発注は工務店一括発注と比較して建築主のメリットは大きい。価格の透明性が確保され、コストの妥当性、そして設計品質や施工品質も一定の水準をクリアすることが可能な手法である。もちろん、CMRの能力に左右されるのは云うまでもないが。

 オープンシステムはフランチャイズではない。入会したからといって容易に実践出来るだけのノウハウを手に入れられるものでもない。先駆者の実体験から出てきたものが寄せ集まって、皆が持ち寄って体系化されてきた。事務所によって、そのやり方は当然違う。悲喜こもごものなかで、自ら編み出したものもある。これを「発展途上」と云わずして何と云うのだろう。工務店やその類の輩からは、発展途上なシステムと位置付けて格好の攻撃材料と捉えられることもあるが、私は決してそうは思わない。確かにレアな方法かもしれない。しかしそれは、無限の可能性を秘めている紛れも無い証拠でもある。何も問題にぶつからなかったら、何も生まれてこないし今後の発展も無いだろう。クレーム産業と云われるこの業界のなかで、今までの常識を覆した方法を選んだのだから、何がしかの障壁はあって当然である。そのひとつひとつに丁寧に取り組んでいくことで、徐々に確立されていく。そう私は信じている。そう遠くない将来の建設業界において、CM分離発注がレアものではなく、ごく当たり前な選択肢になるであろうと、私は疑わないのである。

 
DATA
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本間 貴史(39歳)
竃{間総合計画 代表取締役
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■プロフィール
1966年  新潟県村上市生まれ。
1987年  国立宮城高専建築学科卒業。
       針生承一建築研究所入社。
1990年  現事務所設立。
1996年〜 東北文化学園専門学校建築デザイン科 非常勤講師。

資格:一級建築士。一級建築施工管理技士。JIA登録建築家。
所属:(社)日本建築学会正会員。
    (社)日本建築家協会正会員。
    オープンシステムネットワーク会議正会員。
    日本CM協会正会員。
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■連絡先
竃{間総合計画
宮城県仙台市泉区八乙女中央3-10-8-311

TEL:022-371-6616
FAX:022-371-6615
E-mail:info@hom-ma.co.jp
URL:http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/touhoku/miyagi/honma/
 
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