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「CCI」 2006年2月号・・・N&M HOUSE 新築工事
  今回は1つの案件の具体例を流れに沿って話したいと思う。・・・/(株)本間総合計画 代表取締役 本間 貴史 氏

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続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜

N&M HOUSE 新築工事

  これまで、オープンシステムとの出会い、当事務所の取り組み、
  監理と管理について述べてきた。
  今回は1つの案件の具体例を流れに沿って話したいと思う。


寄稿
(株)本間総合計画 代表取締役
本間 貴史 氏
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●お見合い

 オープンシステムネットワーク会議には、建築主と設計事務所がお見合いをしてパートナーを選ぶ方法がある。通称、OMIAI制度と呼ばれている。これは建築主と建築家の出会いを取り持つWEBサイト(ハウスコンペ等)に近いものがあるが、OMIAIはコンペを行うわけではない。建築主にフィーリングの合う設計事務所を見つけてもらう選択肢としての場の提供である。

 たとえば、建築主がオープンシステムには興味があるが、どの事務所に相談しようか迷った時、オープンネットのホームページ内のお見合いコーナーより申し込むことで複数のOS登録事務所と相談が出来る。名乗りを挙げた参加事務所が複数あった場合、複数の事務所と同時にも、あるいは1社1社別々にも、建築主の望んだ方法でお見合い出来る。建築主の電話番号、FAX番号、メールアドレス等の個人情報は伏せられ、氏名は苗字まで、住所は○○県○○市までの公表にとどまり、参加事務所にも最後までプロフィールの詳細は公表されない。逆に、建築主側は各参加事務所の実績等の詳細情報を入手出来るので、建築主にとってメリットが大きい方法と云える。また、参加事務所にとっても受注の機会を容易に得ることが出来る制度となっている。現在(2006年1月)までのお見合い成約率は33%(838件中275件)、交渉中は43%(838件中363件)である。これは驚異的な成約率である。データから、OMIAIに申し込む建築主の本気さを伺い知ることが出来ると思う。

 2003年8月、宮城県において1件のOMIAI案件がオープンネットの掲示板に登場した。東北地方は人見知りする地域性の為か、OMIAI案件が少ない。そんな中、県内のいくつかの事務所がOMIAI参加に名乗りを挙げたが、私は参加しなかった。

 当時、私がOMIAIに参加しないのには理由があった。それは、直接当事務所に依頼し待機されている建築主をないがしろにして、OMIAIに参加することに後ろめたさを感じていたからである。婚約者がいるのにお見合いするような感覚といえば解りやすいかもしれない。

 建築主にとって設計事務所にアプローチするのは、おそらく我々が思っている以上に気軽なことではないだろう。ハウスメーカーや工務店のように営業するでもなく、何となく敷居が高く感じられる設計事務所へ、相談の電話をかけるのは相当な勇気がいると思う。ここ数年はメールでの相談が大半だが、それでも数ある設計事務所の中で当事務所を選んで頂いた建築主への(忠誠というのは語弊があるかもしれないが)誠意は尽くすべきだろうと考えていた。

●突然の建築相談

 ところが、そのOMIAI案件の建築主がその数ヶ月後、直接当事務所へ建築相談に来られたのである。私は正直、戸惑った。しかし、その建築主は、OMIAIに不参加の事務所の話も聞いてみたいと思い悩み、ON事務局へ相談し、OMIAI参加事務所へ了承を得た上での決断をされたのだった。一生に一度の家づくりである。建築主にとって選択肢は広いほうがいい。オープンシステムに限らず、工務店との比較も含め充分検討したいという思いに対して、私に拒む理由は見当たらなかった。。。これがN&M HOUSEの建築主との出会いである。

●設計契約 そして待機期間

 その後、ご両親も同席した建築相談を経て、2003年12月、建築士業務委託契約を取り交わした。当事務所はこの時期、契約後6ヶ月の待機期間を必要とする程混んでいた。契約後「何をして待っていれば良いでしょう?」とよく聞かれるので、宮脇檀氏の本を読むことを勧めている。云うまでもなく、日本の住宅設計の第一人者であり、優れた住宅と数々の名言を遺した建築家である。ハウスメーカーや工務店等から得られる情報は、とかく性能主義的な一面が否めない。そんな氾濫した情報から本来の家づくりに回帰してもらう為には、宮脇氏の本がとても参考になる。家づくりの大切さは何かを頭に入れてもらった状態で基本設計に入る為、とてもやり易くなる。今回の建築主は、待機されている間に宮脇氏の本を5冊読まれたとのことであった。

●基本設計に着手

 全業務の進捗状況により、待機期間は短縮されることもあり、今回は契約書上の基本設計着手予定よりも約2ヶ月早まった。

 この家は二世帯住宅である。二世帯が独立した生活を送ることで「近居」の利点を得ながら、また一方である程度互いの気配も感じられるような関係を保ちたいとのご要望であった。スープの冷めない距離を保った二世帯住宅である。

 敷地は、地下鉄沿線の市街地に隣接した住宅地ということや、公園が近隣にあることからも魅力的な立地であった。第二種高度地区であり、隣家の状況や、1階に計画していた親世帯が特に日当たりにこだわっておられた為、冬至、春秋分、夏至における隣家からの日影図を作成し、それを元にゾーニングを行った。

 当事務所は、通常設計に木造住宅でも半年以上を要する。それが良いのか悪いのかは、最終的には建築主の満足度に評価されることになるのだが、今回は9回にわたり計38案を提案し、実施設計を含めると設計期間は8ヶ月を越えた。各打合せと共に竣工に至るまで累計280通に及ぶメールのやり取りも合わせて行われた。こうして、ポーチを挟んで親世帯玄関のドアと子世帯玄関の大きめの窓が向かい合い、世帯間の交流が可能な完全分離型の二世帯住宅が計画された。
 
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●実施設計

 当事務所では、3年程前から木造住宅のスケルトン・インフィル化に取り組んでいる。

 日本の木造住宅は25〜30年で取り壊される現実がある。スクラップ&ビルドと森林伐採を繰り返してきたツケが、地球温暖化として直面しているのは周知の事実だが、家づくりに携わるプロとして改善していく義務があると思う。その改善策として、私は木造軸組在来工法のSI化を提唱している。スケルトン・インフィルというと、鉄骨造や木造ラーメン工法といった工法が一般的だが、私はいわゆる特殊工法にはしたくなかった。普通の大工さんでも簡単に施工出来る、そんな汎用性を持った木造軸組在来工法のSI化である。

 この木造SIに関しては、機会を改めて詳しく述べたいと思うが、これまで、箱型の完全なSIタイプとブロックに分割されたSIタイプを実現してきた。

 N&M HOUSEの場合は、分割されたSIタイプである。将来、子世帯が親世帯部分を買い取って賃貸に出すことも視野に入れた構造にしたいというご要望であった為、1階親世帯部分とその真上の2階子世帯居室部分までの通し柱に囲まれた大空間は、将来の大幅な間取りの変更にも対応出来る構造になっている。また、子世帯の水廻り空間も柔軟な間仕切り変更を可能にしている。家族と共に成長する家である。

●予算書の作成

 本誌12月号でも述べたが、発注説明会の前に過去の実績より把握している単価から予算書を作成する。建築主によっては、概算予算を出さないとプランの選択が出来ないという方もおられるので、最近は、基本設計の段階から予算書(概算)を作成することもある。

 今回は完全分離型の二世帯住宅の為、設備が二世帯分になる。坪単価に換算すると割高になることは予想していたが、積み上げた金額を見るとやはり予算を上回っていた。予算を上回った場合、減額案を数十項目に渡り作成し、どの減額案にするか建築主に選択してもらう。ここで承認された項目を実施設計に反映し、同時に予算書も変更訂正するのだ。

 この予算書を作成していた頃、珍客が訪れた。分離発注の噂を聞いて県内の生コン会社(JIS規格工場)が営業にやって来たのだ。生コンを工務店に売るのではなく、エンドユーザーに直接売ることに興味を持って来たようだ。

 ハウスメーカーやマンション建設が主流の工務店のような大口の場合は、スケールメリットでコストを抑えている為、安価なコンクリートを調達出来るが、小口は難しい。ましてや生コンは組合である程度決まっている単価がある。この殻を破ることは出来ないだろうか?直接、工場と交渉することが出来れば、小口であっても安くなるのではないか?そんな思いを常々抱いていただけに、生コン会社と直接交渉という現実に胸が躍った。その結果、コンクリートを直接生コン会社に発注することになった。木造住宅の基礎程度の規模で、生コンを分離発注するのは稀なケースと云えるだろう。

●発注説明会

 今回は36社の参加によって発注説明会を行った(1社で複数の工種を入札する業者さんも多数いる)。また、競争原理の働く工種は毎回違う。競争原理により当初の予算を毎回必ず下回るが、競争原理が働かない工種も予算とほぼ同じになることが多い。N&M HOUSEの最終的な総額は、結果的に当初の予算より250万円程下回る金額となった。

●工事分割請負契約 着工 工事監理

 業者選定がスムーズに済んで、工事分割請負契約も無事終えることが出来た4月、いよいよ着工となる。今回、初めて挑んだことがある。それは、ベタ基礎のスラブと立ち上がりを一発で打つというものだった。鉄筋、型枠を組む手間は2回に分ける場合よりも掛かるが打設する回数は減る。

 基礎の耐久性の向上が目的で、今後、更に研究が必要だが、コツを掴むとコスト減にもなる方法である。基礎工事業者は、当事務所のCM分離発注案件を最も落札受注している業者さんであったので、もちろん腕は信頼していたが、通常、赤字のリスクを考え尻込みしてしまいがちなことであるにも拘らず、きっちりと仕事をしてくれた。何よりもその旺盛なチャレンジ精神に脱帽である。

 同じ頃、工務店一括発注の現場で、現場監督にベタ基礎一発打ちの話をしてみたが「いつか、自社案件でやれる機会があったら・・・」という返事であった。工務店側の都合もある為無理を云う訳にもいかない。

 CM分離発注は、我々設計者が業者さんと直接やり取りしているからこそ、新しいことに取り組みやすい環境にある。つまり色んな意味で可能性を探求出来るのだ。このことは、我々にとっても大きな自信となっている。
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●竣工

  2005年9月、N&MHOUSEは竣工の日を迎えた。OMIAIがもたらした意外な出会いから2年が経とうとしていた。実はこの家の基本設計着手直後、オープンシステムを非難中傷した記事が地元新聞に載ったことがあった。誤解に基づいて書かれたその記事に対し、「オープンシステムの良い実績を残していくことで立ち向かう」と云った私に「私たちもその一助になることができればいいね」と云ってくれた建築主の言葉が、今も、心に刻まれている…。


DATA
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本間 貴史(39歳)
竃{間総合計画 代表取締役
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■プロフィール
1966年  新潟県村上市生まれ。
1987年  国立宮城高専建築学科卒業。
       針生承一建築研究所入社。
1990年  現事務所設立。
1996年〜 東北文化学園専門学校建築デザイン科 非常勤講師。

資格:一級建築士。一級建築施工管理技士。JIA登録建築家。
所属:(社)日本建築学会正会員。
    (社)日本建築家協会正会員。
    オープンシステムネットワーク会議正会員。
    日本CM協会正会員。
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■連絡先
竃{間総合計画
宮城県仙台市泉区八乙女中央3-10-8-311

TEL:022-371-6616
FAX:022-371-6615
E-mail:info@hom-ma.co.jp
URL:http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/touhoku/miyagi/honma/
 
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