オープンシステム関連情報
各種メディアへの掲載、建物の受賞等、オープンシステムに関する情報です。
 

建築革命宣言!価格の見えるグッドデザイン(5)
  「CCI」 2006年9月号 OS#05「S&E.Labo」/(株)アトリエ・ラッツ 代表取締役 古後 信二


続 『建築革命宣言!』 〜オープンシステム/ピュアCMに挑む建築士たち〜

価格の見えるグッドデザイン

第5回 OS#05「S&E.Labo」


寄稿
株式会社アトリエ・ラッツ 一級建築士事務所
代表取締役・最高経営責任者
古後 信二 氏

●S&E.Labo

 「S&E.Labo」は大分県別府市において2005年12月に完成した夫婦+猫4匹のための専用住宅である。

 プロジェクト名は物理学の先生でもあるクライアントの命名である。サイエンス、エコロジー。生涯にわたる研究所。そんな思いが込められている。我々ラッツメンバー全員が大の猫好き。猫のための空間とは?というサブテーマもあり、楽しい打合せが続いた。

 平屋のコートハウス形式をとり、南側に開放されたメインボリュームと、プライバシーを確保するための北側のガレージ・浴室のあるサブボリュームによって囲われた空間構成である。メインボリュームの天井高さを高く確保し、北側にはロフトを設けている。

●エコ設備の導入

 プロジェクト名が表わすように、施主の意向として、各種のエコ設備が積極的に導入された。
 太陽光発電、オール電化、ロスナイ換気、エコキュート、雨水タンク。

 コストコントロールに苦労があったが、我々にとってもおおいに勉強させていただく事ができた。

 また、本格的なホームシアター設備も設置されている。
 最新の設備機器に対する実践的な知識が得られたプロジェクトでもあった。
 
S&E.Labo アウトドアリビング1・2

●施主からのブログコメント

 さて、現場が進行する期間に、我々のブログ上に施主からあたたかいコメントを頂いた。我々にとって生涯の宝となるコメントであった。このプロジェクトを語るには、このコメントを御覧頂く事が最適である。ここに全文を御紹介したい。

 施主コメント:
「オープンシステムを応援する施主として一言。
 2年半前、古い実家を解体してその跡地に新築したいと考えてからいくつかのハウスメーカーさんと折衝し、その内1社とは契約まで交わした頃から、ラッツとのオープンシステムという建築手法に行きつくまでにはずいぶん遠回りをしてきました。

 生涯に自分の家と呼べるものを建てる機会はこれ一度という思いから、施主として素人ながらも建築について出来る限りの研究をし、限られた予算を有意義に使うために打ち合わせに臨んでいたにも関わらず、ハウスメーカーさんから返ってくる工事の実際的な中身は打ち合わせを重ねてもなかなか見えてくるものがない不満を感じていました。

 結局、実家の解体では隣家との関係できわめて困難な状況が発生したこともあって建築計画を見直すことにし、それまでの必要経費・違約金を支払う覚悟の上でハウスメーカーさんとの契約を破棄した経緯があったのです。

 ただ、そのときの打ち合わせの経験から自分たちが建てたい家はハウスメーカーさんの扱う標準的な家では難しいことに思い至り建築家住宅を考えるようになっていました。また、少なくとも素人の自分たちよりは建築家による設計・施工管理によって工事内容が透明化するのではないかという思いもありました。

 とはいうものの、建築家に依頼すると目の玉の飛び出るような設計料がかかって結局無理なのではないかという不安やその建築家をどうやって探したらいいのかという手掛りの無い状態で、家造りをまた一から始めることにしばらく落込む日々を過ごしたのも事実です。


 そんな中、インターネットで建築家に関するサイトを闇雲に調べている内に、偶然オープンシステムという建築手法を知ることができたのです。今から1年ほど前のことでした。

 このオープンシステムは、「建築資金を施主の考える方向性に従って有意義に配分できる」という意味で私自身がそんな建築手法がないものかと考えていた方法そのものでした。

 建築内容と予算計画がどのように関連付けられているかが透明になれば、何が可能で何が不可能なのかが極めて明確になってきます。それは限られた予算を施主として、より、ベターに使うために欠くことができない情報だと私自身感じていたからです。

 とはいうものの、どうもオープンシステムという手法はまだまだ一般的なものではなく、地方都市大分でそれに取り組んでいる建築家が居られるだろうとは思いもよらないことでした。

 設計や施工管理のことを考えると別府・大分市に事務所を置いている建築家に依頼する以外になく、ましてや県外の建築家に依頼することは私にとっては想定外でしたから、オープンシステムを取り入れることは極めて難しいと考えていました。その意味でアトリエ・ラッツとの出会いは私たちにとって本当に幸いだったといえます。

 家を建てようという取り組みを始めながら色々な問題が発生していつまでも具体的なものにつながらなかったことも今にして思えば、まさに「災い転じて福と成す」を地でいったものと言えましょう。

 ラッツとの契約後の中身で最初に驚かされたのは、提案された完成後の住宅模型の美しさでした。白いスチロールと透明なアクリルで構成された第一回目の提案を見て、本当に建築家住宅にして良かったと妻と二人で語り合いました。


 その後の打ち合わせでは、確かに建築前に持っていたいくつかの要望はあっさりと切られてしまいましたが、それは施主として納得した上での選択ができたことによって不満が残ることはありませんでした。

 また、設計に関してもハウスメーカーとの打ち合わせとは比較にならないほど多くの図面が提出され、細かな部分について具体的な問題点を検討することができたことも私たち自身が納得して中身を決定していく上で十分満足できるものでした。

 建築家にとって、標準的な部材の使用・建物の形状・床面積などから建築予算の概算をすることはそれほど難しいことではないと思いますが、オープンシステムの手法では設計図面に従って必要な柱や構造材のサイズ・数量から始まって防水テープ1個に至るまで完成までに必要とするあらゆる品々を出来る限り正確に拾い出し、その部材の予想される仕入れ値まで見積もられているのです。

 そして、それを元にして変更可能な部材選択を工事内容毎に提案(第1回目の選択提案の見積もりを含めA4で88ページ)されたのには驚かされました。(拾い出し・見積もりに関わった安東さん、本当にお疲れ様でした。)

 施主側では、その選択肢を予算の適う範囲内で取捨選択できるのですからその結果には納得せざるを得ません。

 また工事内容毎にいくつかの業者の見積もりを比較し分離分割発注するため、工事費・工事内容でよりよい業者と契約でき、どの工事にどんな業者がどれほどの工事費で入ってくるのかも一目瞭然です。(この段階でオープンシステムを取り入れて本当に良かったと思いました)

 これらの手順は施主側にも大変大きなエネルギーを要求するものですが、住宅にかける金額の大きさ(老後のための貯金が現段階では無くなってしまいました)と完成した住宅で少なくとも人生を全うしたいと考えている私たちにとってはむしろ必要であり歓迎すべき手順だったと思います。

 その中身に直接関わることができた施主の立場として、小さなブログサイトの場ではありますがオープンシステムこそ家造りを真剣に考えている施主にとって本来あるべき建築手法であると断言してよいでしょう。

 私たちと同じように考えている施主は大分にもまだまだたくさんいると思います。大分においても第2、第3のラッツが必要となってくるのは時代の必然です。」
 
S&E.Labo インテリア1・2

●総括

 9月から12月末までの約4ヶ月という標準的な工期。アトリエ・ラッツの担当である安東歩にとって、前回のリストランテ・ミニーニャを担当したとはいえ、新築物件では初めてのオープンシステムであった。今回も途中で何度も泣き、そして奮闘してもらった。猫達が予想以上にのびのびと楽しんでくれているらしい。気をつかった猫階段、1段飛ばしで上り下りをしているそうだ。

 オープンシステムを完全に理解できた理想的な施主とのコラボレーション。我々にとっても至福の時を過ごさせていただいたといっていい。

 我々のオープンシステム第5号は、前作に引き続き、オール電化住宅オブザイヤー2005「最優秀賞」を受賞した。今後もサスティナブル関連の受賞実績を積み上げることだろう。「現代日本の建築vol.2」への掲載もされ、今後も各種掲載が控えている。

●精度の向上へむけて

 オープンシステム第1号の完成からちょうど1年が過ぎた。オープンシステムでの実績も増え、徐々に内容を充実させてきたとはいえ、まだまだ発展途上。改善すべき点は多々発見できた。ОS#03「エコ・キューブ#03」のオープンハウスにも来て頂いたクライアントから正式なオファーを頂いたのをきっかけとし、我々の業務のあり方を見直すべく、密度をいま以上にあげて取り組むことにした。オープンシステムとは建築の「見える化」である。いろんな事が見えてくる以上、対応を考える。そして、我々の「現場力」が向上していくのである。

 そして次の物件では、新しい課題として、ユニットケーブルの導入、家庭用燃料電池システムの導入、施主工事の範囲拡大。そんな盛りだくさんの内容が詰め込まれる方向となっていった。新たな取り組みと精度の向上。我々のオープンシステムは次のステージへとむかいつつあった。(続く)
 
S&E.Labo アウトドアリビング3

●データ
■#012 S&E.Labo
 所在地/大分県別府市青山
 主要用途/専用住宅
■設計
 設計・監理/株式会社アトリエ・ラッツ 一級建築士事務所
■施工
 オープンシステム(分離発注方式)
 CM/株式会社アトリエ・ラッツ 一級建築士事務所 CM部
 仮設工事/二豊ウイング
 基礎工事/長工業
 大工工事/矢川辰樹、薬師寺薫
 塗装工事/東青塗工
 左官工事/黒田建商
 板金工事/松浦板金
 金属製建具工事/九州新日軽
 木製建具工事/瑞木産業
 造作家具工事/佐藤家具製作所
 内装工事/インテリアS
 電気設備工事/デンザイ東亜
 機械設備工事/デンザイ東亜
 美装工事/富永産業
 廃材処理/九州環境管理(株)
■構造・構法
 構造/在来木造
 基礎/ベタ基礎
■規模
 階数/地上1階
 最高の高さ/5m
 敷地面積/252.01u(76.23坪)
 建築面積/153.42u(46.40坪)
(建ペイ率60.88% < 許容90%)
 延床面積/143.18u(43.31坪)
 (容積率56.82% < 許容240%)
  1階/143.18u
  ロフト階/33.20u
 施工床面積/180.22u(54.51坪)
■工程
 設計期間/2005年04月〜2005年08月
 工事期間/2005年09月〜2005年12月
■敷地条件
 用途地域等/商業地域
 防火地域/準防火地域
 道路幅員/二項道路・市道原2号線・幅員3.5m
      駐車台数1台
■外部仕上
 屋根/ガルバリウム鋼板縦ハゼ葺
 外壁/ガルバリウム鋼板大波横張
 開口部/アルミサッシ
 外構/砂利敷き
■内部仕上
 1階
  床/上小節檜無垢フローリングt=15
壁/石膏ボードt=12.5+珪藻土クロス貼
  天井/石膏ボードt=9.5+珪藻土クロス貼
 浴室
  床/300角タイル貼
腰壁/300角タイル貼
  壁/ケイカル板t=6+塗装
  天井/ケイカル板t=6+塗装
■設備システム
 空調  冷暖房方式/エアコン
 給排水 給水方式/上水道直結
     排水方式/公共下水
     給湯方式/ヒートポンプ式電気給湯機
■主な使用機器
 衛生機器/TOTO・INAX
 浴槽/INAX
 厨房機器/タカラスタンダード
 照明/松下電工、小泉産業
■コスト
 建築本体工費 3,300万円(税込)
 坪単価 60.53万円/坪
(建築本体工事/施工床)

●受賞・ノミネート
オール電化住宅オブ・ザ・イヤー2005「最優秀賞」

●掲載・出版
大分の建築家の本vol.2(日本・雑誌、4P)
現代日本の建築vol.2(日本・書籍、2P)

●出展
「+A・大分の建築家展」(大分、2006.03.26-04.02)
「第3回未来をのぞく住宅展」(大分、2006.06.02-04)
「第2回未来をのぞく住宅展」(北九州、2006.07.08-09)
「+A・大分の建築家巡回展」(中津、予定)
第5回未来をのぞく住宅展(山口、2006.09.16-18)



DATA
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古後 信二(37歳)
(株)アトリエ・ラッツ一級建築士事務所 代表取締役
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■プロフィール
1969年  大分県玖珠町生まれ。
1992年  大分大学工学部建設工学科 卒業。
1994年  大分大学大学院 修了。(佐藤誠治建築・都市計画ゼミ)
1998年  アトリエ・ラッツ 設立。
2004年  四日市門前町まちづくり協議会顧問 就任。
2005年  有限会社アトリエ・ラッツ代表取締役 就任。
2006年  大分大学大学院非常勤講師 就任。
      JIA九州支部大分会 幹事就任。
      日本CM協会九州支部 幹事就任。
      株式会社アトリエ・ラッツ代表取締役 就任。

所属:(社)日本建築家協会、(社)日本建築学会、
    (社)日本商環境設計家協会、
    オープンシステムネットワーク会議、日本CM協会。
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■連絡先
(株)アトリエ・ラッツ一級建築士事務所
大分県大分市上宗方1996番地の1 K-SOHO 101

TEL:097-542-7430
FAX:097-542-7430
E-mail:rats@oct-net.ne.jp
URL:http://www.open-net.jp/site/page/jimusho/japan/kyusyu/ooita/rats/
 
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