CCI 2009年5月号
  【第4回】 『住宅の設計・監理業務 +CM分離発注業務』

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『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第4回】
『住宅の設計・監理業務+CM分離発注業務』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

CM分離発注方式を行っている設計事務所は、どのような業務委託契約を交わしているのか。また、具体的にどのような業務を行い、どれだけの報酬を受け取っているのか。

1月7日に策定された国交省告示第15号の「新・設計監理業務報酬基準」と、創建工房一級建築士事務所の黒土敏彦さんが実際に行った業務の内容を比較検討してみる。

「設計」という言葉は知っているが、具体的にどのような業務をするのか、ほとんどわかっていない。まして「監理」という言葉など聞いたこともない。

住宅等の小さな建物においては、最も効率的に、最も的確に建築主の思いを反映させる手法として、建築士が主体的に行うCM分離発注方式に辿り着きました。



新しい業務報酬基準で
設計監理費を算出すると

建築士法が大幅に改正された。既に昨年11月28日から実施されている「重要事項の説明義務」、それから今年の5月27日からスタートする「構造一級建築士・設備一級建築士制度」等である。

改正に伴って、新しい「建築設計・工事監理の業務報酬基準」も策定された。これまでの建設省告示1206号を廃止して、新たにH21年国土交通省告示第15号を定めたのである。

さっそく、新しい業務報酬基準に沿って、「詳細設計を必要とする戸建住宅」を略算法で計算してみた。すると、次のような金額になった。

■床面積100uで、547万円(消費税込み)

■床面積150uで、730万円(消費税込み)

■床面積200uで、884万円(消費税込み)

さて、この業務報酬料は高いのか、安いのか。



詐欺だ!
絶対に騙されている

話は変わる。H18年、創建工房一級建築士事務所(福岡県)の黒土敏彦さんは、建築主のSさんと設計・監理業務委託契約を交わした。想定床面積100uの木造平屋建て住宅である。業務報酬料は消費税を含めて298万円。

Sさん夫妻は、契約を交わすまでに何十冊も建築の本を読んで勉強した。また、住宅会社のモデルハウスや完成見学会にも足を運んでいた。熱心に検討を重ね、夫婦ともに納得して創建工房の黒土さんと業務委託契約を交わした。

ところが、周りが騒いだ。

「家の設計料が300万円だなんてふざけている。詐欺だ! 絶対に騙されている」

「知りあいの大工さんは、工事をさせてもらえるなら設計料はいらないと言っているわよ」

建築予定地は、何年ぶりに新築の家が建つという古くからある集落である。これまで設計事務所と業務委託契約を交わして家を建てた者は誰もいない。「設計」という言葉は知っているが、具体的にどのような業務をするのか、ほとんどわかっていない。まして「監理」という言葉など聞いたこともない。

国交省が策定した新しい業務報酬基準と、現実の設計・監理業務の現場には、まだまだ大きな隔たりがある。



計算の根拠を
もういちどチェック

設計・監理業務を298万円で契約した黒土敏彦さん。前述の新しい報酬基準で算出した547万円に比べるとずっと低い金額だ。

それにもかかわらず、回りが騒いだ。

「ぼったくりだ! 騙されている」

挙げ句の果てに「解体した建物を元に戻せ!」という騒動まで勃発した。これでは割に合わない。どこでこのようなズレが生じたのか。新・業務報酬基準による計算方法をもういちどチェックしてみる。

■業務報酬料=@直接人件費×2.0+A特別経費+B技術料等経費+消費税

この計算式の考え方は、これまでの告示1206号と基本的に変わらない。変わった部分は人件費の根拠である。これまでは工事費から割り出していたものを、告示第15号では床面積に変わった。また、人・日数という単位が人・時間に変わった。

@直接人件費・直接経費及び間接経費

別表第14より、100uの戸建住宅の設計・監理は789人・時間である。時間当たりの人件費は特に基準がないので、とりあえず3,000円で計算した。2,367,000円が直接人件費。

略算法では、直接経費及び間接経費を直接人件費の額に相当すると考えている。したがって直接人件費に2.0を乗じたものが、直接経費及び間接経費を含んだ金額。

A特別経費

前述の547万円の中には考慮していない。

B技術料等経費。

これも特に基準がないので、直接人件費の20%とした。473,400円。

■業務報酬料=(2,367,000円×2.0+0円+473,400円)×1.05=5,467,800円。

1時間当たりの直接人件費3,000円は、1日当たり8時間として24,000円となる。けっして十分な金額とは思わないが、アトリエ事務所ではこんなものだろう。あるいはもっと低いかもしれない。多くの事務所が時間外の勤務で補っているのが現実だ。



設計・監理業務の延長線上に
CM分離発注業務がある

言うまでもなく、業務報酬料は業務の内容と密接に関係している。先に導いた報酬料の5,467,800円は標準業務を行ったものとして計算した。追加的な業務は何も考慮していない。

では、黒土さんが行った業務はどうだったのだろうか? 黒土さんは、設計・監理業務+CM分離発注業務として契約した。しかし、設計・監理業務とCM分離発注業務を別々に契約したのではない。

黒土さんは、分離発注を行う際のCM業務を、あくまでも設計・監理業務の延長線上に捉えている。したがって、CM業務を追加的な業務として契約した。

大きな追加的な業務(CM業務)が発生したにもかかわらず、黒土さんが契約した金額は2,980,000円。先に導いた金額に比べてずいぶん低い。

そこで、告示第15号の標準業務と、黒土さんが実際に行った業務の内容をもう少し詳しく比較してみようと思う。比較することで、分離発注におけるCM業務の内容が見えてくると思うからだ。

黒土さんが行った木造戸建住宅の分離発注業務とは、一体どのようなものだろうか?



「設計条件等の整理」は難しい

黒土さんは、基本設計も実施設計も、告示第15号に網羅されている標準業務をすべて行った。と、項目だけを比べるとこのような表現になる。

しかし、項目を満たせば足りるほど、住宅の設計は簡単ではない。特に「設計条件等の整理」は難しい。

雑誌『イエヒト』の取材で出会った、3度目の家づくりという建築主の話を紹介する。

1度目は建売住宅を購入した。子どもが生まれて家族が増え、すぐに住みにくい家になった。10年我慢して、2度目の家を工務店の注文住宅で建てた。それから15年後、3度目の家を設計事務所と業務委託契約を交わして建てた。

建築主は、次のような感想を述べた。

「工務店の設計士も設計事務所の設計士も、どちらも同じように私の要望を訊き、設計条件等を整理しました。私が伝えた内容も、設計士が私に訊いた質問も、大きな違いはありませんでした。しかし、実際に設計に反映された内容には、天と地ほどの違いがありました」

建築主が思いを伝えることも、それを建築士が的確に掴むことも難しい。「予算は? 必要な部屋は? 広さは?」という質問だけでは捉えきれないものがある。そこで建築士は、あるときは会話の中から、またあるときはラフプランの反応から掴みとろうと努力している。

それはともかく、黒土さんは、模型やCGを駆使して建築主の要望を引き出し、設計条件等を整理した。ちなみに、模型もCGも、告示第15号では追加的な業務であり追加的な成果図書である。



設計段階におけるCM業務

黒土さんは、基本設計と実施設計の段階で、CM業務を行ったのだろうか? それは行ったともいえるし、行っていないともいえる。

CM協会発行の『CMガイドブック』を開いてみると、CMrの主な業務として「設計図書が発注者のニーズ(品質・コスト・工期)と合致しているか」という項目をあげている。

また、CM業務を以下のA〜Gの7つの段階・局面に分類している。A基本計画、B基本設計、C実施設計、D工事発注、E工事、F完成後、G共通。

CM業務は、基本設計と実施設計の段階にも存在するが、業務項目で示すなら、設計に関する標準業務とほとんど重複する。重複しない業務は「設計図書の作成」だけ、といってもあながち間違いではないくらいだ。

黒土さんは、CM業務を設計・監理業務の追加的な業務として契約した。つまり、同じ建築士が設計・監理業務とCM業務を同時に行った。

CMの実務家や学者の中には、同一人物(または同一企業)が設計・監理業務とCM業務を同時に行うのは本来のCMではない、と考える人もいる。学問的にはその通りかもしれない。しかし黒土さんは次のように言う。

「学問的な評価は関係ありません。ただ、建築主に喜んでもらいたい。そして工事に参加する専門業者に納得してもらいたい。その一点で仕事をしています。大規模な建築物ならともかく、住宅等の小さな建物においては、最も効率的に、最も的確に建築主の思いを反映させる手法として、私は、建築士が主体的に行うCM分離発注方式に辿り着きました」



建築士が主体的に行う
CM分離発注業務

黒土さんが行ったCM業務は、大きく以下の段階を経て行われた。

@受託契約前の業務

A基本設計業務

B実施設計業務

C見積り及び施工業者選定業務

D監理業務

E完成引き渡し後の業務

この流れは、基本的に一般的な設計・監理業務と何ら変わらない。また、それぞれの段階で行う業務の内容も基本的に変わらない。

いくらか違うのはC見積り及び施工業者選定業務で、その次に違うのがD監理業務である。ABの設計段階の業務は、通常の設計業務と何ら変わりはない。

「しいて設計段階での業務の違いをあげるとしたら」という質問に、黒土さんは次のように話す。

「多くの専門業者に見積られることを意識して図面を描きます。実施設計の段階では、いっそのこと施工図まで描いてしまおうと思い、実際に描くこともあります。その方が、見積り段階での質応答も楽だし、工事に入ってからドタバタしなくて済みますからね」

黒土さんが行った業務の内容は、国交省告示第15号の標準業務に比べ、増えていることはあっても減っていることはない。

建築士法第25号―――国土交通大臣は、中央建築士審査会の同意を得て、建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準を定め、これを勧告することができる。

「黒土さん、あなたはもっと業務報酬料を高く設定しなければなりません」と勧告するのだろうか? それとも「建築主さん、適正な業務報酬料を払わなければいけませんよ」と勧告するのだろうか? 

今号は、設計業務の内容を比較しただけで誌面が尽きた。次号では、C見積り及び施工業者選定業務とD監理業務を中心で比較検討してみる。





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掲載者 イエヒト編集室
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