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CCI 2009年6月号
  【第5回】 住宅の設計監理+CM 『見積り・業者選定業務』

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『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第5回】
住宅の設計監理+CM『見積り・業者選定業務』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

国交省告示第15号の「新・設計監理業務報酬基準」と、創建工房一級建築士事務所の黒土敏彦さんが実際に行った業務の内容を比較した。黒土さんの業務は、設計監理+CM分離発注業務。

設計段階では、黒土さんの業務と告示第15号の標準業務にさほどの違いはなかった。つまり、設計段階におけるCM分離発注業務は、設計業務と限りなく重なり合っていたのである。

今号は、黒土さんの行った見積り・業者選定業務の内容について詳しく調べてみようと思う。



該当する・しないに意味はない
大事なのは業務内容の濃さ

告示第15号の標準業務の項目に照らし合わせ、「該当する・しない」のチェックを入れても大した意味はない。大事なのは業務内容の濃さである。

設計業務ではその違いがわかりにくかったが、分離発注の監理業務だと違いがはっきりする。

例えば告示第15号の「工事監理に関するその他の標準業務」というところ。(1)の項目に「工事代金内訳書の検討及び報告」とある。つまり「工事施工者から提出される請負代金内訳書の適否を合理的な方法により検討し、建築主に報告する」業務という意味らしい。

業務内容について個々の特徴を捨て、全体に共通するものだけを取り上げると、告示のような文章になる。概念的だ! これでは、一般的な監理業務もCM分離発注の監理業務も同じ扱いとなる。

しかし、実際、業務内容はずいぶん違う。少なくともその業務に費やす監理者の労力と時間には、とても大きな違いがある。

そこで、創建工房一級建築士事務所の黒土敏彦さんが行った監理業務を説明するに当たって、告示第15号の業務項目に照らし合わせる方法から一旦離れ、実施設計をすべて終えた時点から、時間軸に沿って、監理業務の内容を詳しく追ってみることにした。



見積り・業者選定業務の流れ

黒土さんは、実施設計をすべて終えた。いや、一旦終えたという方が正解かもしれない。もし施工業者の見積り金額が予定金額を大きく上回っていたら、設計変更もあり得るからだ。

 一旦実施設計を終えた黒土さんは、見積り・業者選定業務に取り掛かった。ちなみに、CM分離発注では、告示第15号で分類している「設計業務」と「監理業務」に加えて「見積り・業者選定業務」があってもいいくらいだ。

 黒土さんは、見積り・業者選定業務を以下の流れで進めた。

@業種の分類
A見積り参加の案内
B見積り方法の説明
C業種ごとの見積り集計
DVE案の検討と再見積り(繰り返す場合がある)
E工事請負業者の選定
F見積り結果の報告
G工事請負契約書の作成
H工程表と支払予定表の作成
I工事請負契約の立会

それでは@〜Iについて、詳しく調べてみよう。



@業種の分類

敢えて言うまでもないが、建築業は製造業に似ている。組み立て工場を持たず、ほぼ100%外注に依存している製造業である。

 どんなに大きなゼネコンが請負っても、あるいは小さな町の工務店が請負っても、工事をするのは大工・左官・設備など多くの専門業者。

分離発注とは、建築主がこれら多くの業者と直に工事請負契約を交わして、建築工事を進める方法である。

黒土さんは、Sさんの家を31の業種に分類した。列記すると次のようになる。

地盤調査、解体、仮設トイレ、仮設足場、鋼管杭、外構、基礎、大工、木材・プレカット、新建材・機器、Jパネル、断熱・気密、アルミサッシ、デッキ・テラス、木製建具、瓦、屋根・板金、左官・石、塗装、ほたて塗料、内装、畳、電気設備、電気機器、本官引込、給排水、設備機器、エコキュート・IH、蓄熱式暖房機、防蟻、美装。

黒土さんは、業種を分類するに当たって、できるかぎり小さな単位に分類した。請負った業者が下請けや孫請けに振りにくいようにした。そして、材料と手間も可能なかぎり分類した。



A見積り参加の案内

業種の分類を終えた黒土さんは、見積り参加を呼びかける業者リストの作成に取り掛かった。

実は黒土さんは、このSさんの家が、初めての分離発注である。したがって、知らないことばかりだった。そこで大いに役立ったのは、オープンネットに蓄積された膨大な参考資料と、分離発注を行っている建築士仲間の助言である。

「特に仲間の助言は、資料だけでは読み取れない実践的なことが多かったので、とても助かりました。みんな、まるで自分のことのように、私が失敗しないよう親切に教えてくれました」と黒土さん。

黒土さんは、設計段階から、見積り参加を呼びかける業者の目星を付けてはいたが、それだけでは不足していた。そこで、建築士仲間が知っている業者も加えて見積り参加を呼びかけた。合計58業者。

オープンネットの登録業者へは自動で見積り参加の案内メールが配信されるので、それ以外の業者へFAXを送信した。(資料1参照)

黒土さんが行った木造戸建住宅の分離発注業務とは、一体どのようなものだろうか?



B見積り方法の説明

見積り参加を呼びかけた58業者のうち、53業者から参加表明があった。1つの業者が複数の業種への見積もりを希望するところもあったので、それぞれを1つの業者と数えると、79業者となった。

「どの業者にどの図面を渡すか。これもけっこう大変な作業でした。瓦屋さんに建具図面を渡してもしょうがありませんし、建具屋さんに屋根伏せ図を渡しても意味がありません。そこで、業者リストをつくり、必要な図面を落とし込んでいきました」と黒土さんは振り返る。

各業者へ渡す図面を用意した黒土さん。次に用意したのは見積り説明書である。(資料2参照)

専門業者へ口頭で伝えると、間違いや勘違いも起きやすいと思ったので、黒土さんはできるかぎり書面で伝えるよう心がけた。

「各業者への説明は、私の事務所で個別に行いました。何しろ53もの業者が入れ替わり立ち替わり来るものですから、2〜3日は対応に忙殺されました。住宅を中心に仕事をしている業者の中には、書面で質疑・回答を行うことに面食らうところもありましたね」と黒土さん。

黒土さんは自分の事務所で個別に説明したが、公共の施設などを利用し、見積り参加業者を一堂に集めて説明会を行っている設計事務所もある。



C業種ごとの見積り集計

黒土さんが行った質疑応答は、通常の設計監理の場合と特に変わるところはない。したがって、詳しく説明しない。

ただ、黒土さんが気を付けたのは、質疑のあった業者へ回答するのはもちろんとして、質疑の内容に関係するすべての業者へも同じ質疑と回答を送った。あくまでも公平な条件での見積りとするためである。

黒土さんは、基本的に1つの業種に複数の業者が見積りに参加するよう心がけた。

例えば解体工事。3業者が参加した。金額はそれぞれ消費税抜きで556,500円と595,350円と670,000円。上下で113,500円の開きがあった。

黒土さんは、それぞれの見積り内容に落ちがないか、神経を集中させた。また、安全管理や処分場などについても業者に訊いた。こうして、556,500円の見積りを提出した解体業者を選択した。

それから同じ作業をすべての業種について行い、選択した業者の見積り金額を集計した。すると19,716,418円になった。予定金額の19,000,000円に比べ716,418円オーバーした。

この時点で黒土さんは、建築主のSさんに中間報告して、今後の進め方を協議した。

「予定価格より若干オーバーしましたが、グレードを下げたくなかったので、無理のない範囲でもういちど設計の内容に無駄がないか、工夫できるところはないか、黒土さんにチェックしてもらうことにしました。それで20万円弱の金額が下がりました」と建築主のSさん。(業種ごとの見積り金額比較表・資料3参照)



DVE案の検討と再見積り

設計事務所が行う木造住宅のCM分離発注方式。その中で最も従来の設計・監理業務と違うであろう「見積り・業者選定業務」。

黒土さんの場合は、幸いにも比較的順調に進んだケースである。予定金額に対して数10万円のオーバーであり、グレードを落としたくないという建築主の容認できる範囲内でもあった。

黒土さんは、自身にとって初めての分離発注方式だったので、予算管理は慎重に慎重を重ねた。計画案の段階でも主な項目の数量を拾い、いくつかの専門業者から見積りを集めた。また、分離発注を行っている仲間の建築士から単価情報を集めて比較した。

同じ床面積の建物でも、コの字型のプランと4角形のプランに、金額に大きな違いのあることも計画案の段階で確認できていた。ゆえに建築主のSさんも納得してシンプルな4角形の案に決めた。

その意味で、最も効果的なVE案は計画案の段階に存在する。実施設計完了後のVE案には、おのずと限度があり、着工してからのVE案にも限界がある。



ここで誌面が尽きた。「見積り・業者選定業務」の後半、E〜Iは次号で。



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掲載者 イエヒト編集室
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