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CCI 2009年8月号
  【第7回】 CM分離発注方式の 『工事監理業務』

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『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第7回】
CM分離発注方式の 『工事監理業務』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

建築士法第25条の規定に基づき、建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準が策定された。平成21年国土交通省告示第15号である。

これまで5月号で「設計業務」を比較し、6月号、7月号で「見積り・業者選定業務」を比較した。

設計段階における「CM業務」は、「設計業務」とほとんどの部分で重なりあっているため、設計者がCMrを兼ねる分離発注方式では、告示の標準業務に比べ、明確な違いは認められなかった。

そして、CM分離発注方式における「見積り・業者選定業務」は、「工事監理業務」に匹敵するほど重要な位置付けであることを確認したが、告示の標準業務では、「工事監理業務」の一部として扱っている。

8月号では、「工事監理業務」について比較する。



一括請負方式と分離発注方式の
「設計・監理業務」の違い

創建工房一級建築士事務所の黒土さん。延べ床面積99uの木造住宅を31の業種に分類し、58の業者から見積りを集め、施工業者を選定した。一括請負方式と分離発注方式の「設計・監理業務」で、最も違う部分が「見積り・業者選定業務」である。

ちなみに、前号・前々号で紹介した「見積り・業者選定業務」を、告示第15号では「工事監理に関する標準業務及びその他の標準業務」として扱っている。

しかし、黒土さんはじめ分離発注方式を手掛ける建築士の多くは、「見積り・業者選定業務」を「工事監理業務」と並列に捉えている。業務の量が格段に多いことに加えて、コストや品質など建築主の期待に応える意味でも、重要な業務であると捉えている。けっして「工事監理業務」に付随した業務ではないということだ。

さてここで、一括請負方式と分離発注方式の「設計・監理業務」の違いについて整理してみよう。

5月号で紹介したように、黒土さんの場合は、分離発注方式だからといって、「設計業務」の内容に特に違いはなかった。

「しいて違いをあげるなら、曖昧な図面を描けないということでしょうか。場合によっては、施工図レベルの詳細図も描きます。どの専門業者が見積っても、正確に見積ることができるようにするためです」と、黒土さん。

これから紹介する「工事監理業務」も、基本的に大きな違いはない。ただ一つ違うところは、「現場監督がいない」ところである。



分離発注方式ならではの
特別なルールを決める

設計監理業務に起因する瑕疵は設計事務所の責任。施工に起因する瑕疵は施工業者の責任。この原則は、一括請負方式でも分離発注方式でも何ら変わらない。

ただし、一括請負方式であれば、施工上の瑕疵をすべて「元請け業者」の責任として片付けられるが、分離発注方式だと責任の所在が不明確になる場合もある。例えば、次のような場合である。

塗装工事の一部に、仕上げの雑な部分があったとする。工事監理者は手直しを指摘した。

「私のせいじゃないですよ。下地が全然ダメでした。あれでは、誰が塗ってもきれいに仕上げることはできません」と、塗装職人。

さてこの場合、塗装職人の責任は?

黒土さんは、このような事態を想定して、分離発注方式の特別ルールを設定した。

・前工程の施工不良を見つけた業者は、速やかに工事を中断して工事監理者に報告する。
・前工程の施工不良を知っていながら次の工程を施工した場合は、前工程と後工程の双方の業者が、それぞれの責任で施工した部分を手直しする。

例に示した塗装工事の場合、下地の施工不良は、その部分を請負った大工が直し、下地の手直しにより生じた塗装工事のやり直しは、塗装業者の責任で行う。きれいに仕上げることはできないと、わかっていながら行なった施工は、認めないということだ。

このように、分離発注の特別ルールを決めておかなければ、それぞれの業者が互いに責任逃れをする場合がある。もちろんこの特別ルールは、工事に着手する前に施工業者に伝えておかなければ効力はない。できるなら、見積り段階から徹底しておくことが望ましい。

黒土さんは、分離発注の特別ルールを以下の項目に関しても設定した。

・見積書と請求書の宛先と提出先に関して。
・工事現場の安全管理に関して。
・労災事故や瑕疵保証に関して。
・工事現場で生じたゴミの処分に関して。



黒土さんが行った
工事監理業務の内容

黒土さんは、工事請負契約会に先行して、業者に指示していたことがある。それは、仮設電気と仮設水道の引き込みである。

「いきなり基礎業者に着工のサインを出して、水や電気が使えなくて慌てたことがある」と、先輩建築士の体験が生かされた。工事現場で初に水や電気を使うのは基礎業者であるが、仮設水道や仮設電気を引きこむのは給排水設備業者や電気設備業者。誰かが指示を出さないと、うっかり忘れていることもある。

現場監督の存在しない分離発注工事では、工事の進捗状況を黒土さんが把握した。自ら段取りをするという意味ではなく、司令塔あるいは調整役という立場である。

このように分離発注ならではの付随的な業務も発生したが、本来の工事監理業務が中心であることに変わりはない。本来の工事監理業務とは、「工事と設計図書との照合・確認/結果の報告」である。

黒土さんは、工事の進捗に沿って、主要な項目を監理した。項目が多岐にわたるので、ここでは添付資料1−工事監理の主要項目、添付資料2−工事監理シートの例を掲載するに止める。



義務付けられているが
実態のない工事監理

工事監理は、建築基準法や建築士法で、一定規模以上の建物に義務付けられている。しかし、ほとんどの木造住宅で、工事監理の実態はない。あっても形式的である。その内容を列記すると、

・設計の変更は特になし。
・主要な材料や設備は設計図書の通り。
・主要な工事は設計図書の通りに施工。
・施工者に与えた注意は特になし。

このような形式的な監理報告書は、1〜2ページで済む。それに対し黒土さんは、30数項目にわたって照合・確認を行ない、工事監理報告書は優に100ページを超えた。

片や1〜2ページで済ませる工事監理報告書。その一方で100ページを超える工事監理報告書。どちらが本当の工事監理業務か。告示第15号で示している「工事監理の標準業務」は、後者を指しているのは言うまでもない。

昨年5月、工事監理の実態について、国土交通省を取材した。実態のない工事監理を見て見ぬふりをしている一方で、指定保険法人の「現場検査」を厳格に推し進める動きが見えたからだ。

「建築基準法」や「建築士法」よりも「品確法」や「瑕疵担保履行法」を重視するということか。黒土さんが行なった「工事監理」より、指定保険の「現場検査」の方が上なのか。あるいは、現状の「工事監理」が有名無実であるがゆえに、別の方法で補おうとする考え方なのか。

国土交通省の取材では、個人的な見解という前提で、次のような意見を交わした。

「工事監理」は建築基準法や建築士法で義務付けられている。しかし、「工事と設計図書との照合・確認」という記述はあっても、具体的にどの部分をどのように照合・確認するか、という指針がない。それが、工事監理を実態なきものにしているのではないか、と。



国交省が意見公募した
工事監理ガイドライン(案)

本年1月、国土交通省は「工事監理ガイドライン(案)」に対する意見公募を行なった。このガイドライン(案)は、やがて告示第15号の業務報酬基準に連動することも記されている。

ガイドライン(案)は、以下のように編集されている。

・非木造 建築工事編
・非木造 電気設備工事編
・非木造 給排水衛生設備工事/空調換気設備工事編
・非木造 昇降機等工事編
・戸建木造住宅編(軸組工法/枠組壁工法)

また、「工事と設計図書との照合及び確認の方法の原則」として、以下のように記されている。

「設計図書に定めのある方法による確認のほか、目視による確認、抽出による確認、工事施工者から提出される品質管理記録の確認(工事請負契約に基づいて提出される場合)等、確認対象工事に応じた合理的方法により行われる」

要するに、工事監理者が工事そのものを直接見る方法もあり、工事施工者から提出される記録をチェックする方法もあり、ということだ。黒土さんは、言うまでもなく工事そのものを自分の目で確認した。

ガイドライン(案)の「戸建木造住宅編(軸組工法/枠組壁工法)」で示している工事監理の内容は、黒土さんが実際に行なった内容に極めて近い。

このガイドライン(案)について黒土さんは、「大歓迎です。有名無実の工事監理から、実効性のある工事監理への第一歩と受け止めています」と語る。

ガイドライン(案)は、いくつかの修正を加えられ、やがて正式なガイドラインとして発表されるだろう。今のところ、罰則規定はない。しかし、裁判でガイドラインが参照されることは十分予測される。そのとき、これまで通用してきた僅か1〜2ページの形式的な監理報告書はどのように判断されるだろうか。きっと、「工事監理の実態は認められない」と、多くの戸建て住宅で判断されるだろう。

告示第15号で示した
標準業務と報酬について

黒土さんは、99uの木造住宅の「設計・工事監理業務」を約300万円で受託した。CM分離発注方式に伴う追加業務も含めた金額である。

同じ建物を告示第15号の標準業務で報酬料を算定すると、1時間当たりの直接人件費を3千円として、547万円になった。CM分離発注方式に伴う追加業務を含めると、2割アップと見積って約650万円となる。

しかし現実は、「あくまでも計算上で」という前提の金額である。実際、黒土さんは、計算上の半分以下の金額で契約したにも関わらず、親戚から「詐欺だ!ぼったくりだ!」と大騒ぎになって慌てた。

机上の計算と現実では、まだまだギャップが大きすぎる。やがて、工事監理の実態が是正されるなど、いろんな面が見直され、机上の計算と現実が少しでも近づく日がくるのだろうか。私たち建築士は、くると信じて目の前の課題に全力を注ぐしかないのではあるが……。

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掲載者 イエヒト編集室
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