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CCI 2009年10月号
  【第9回】『シンプル族とCM分離発注の相性』

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『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第9回】
『シンプル族とCM分離発注の相性』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

これまでに「イエヒト」で取材した住宅では、建て主が何らかの形で工事に参加するケースが驚くほど多かった。ざっと3人に1人の割合である。このようなことは、一般的な住宅ではほとんどみられない。分離発注の家づくりの際立った特徴である。建て主の志向性と分離発注方式。ここに、どのような傾向性が認められるか。探ってみた。



閉ざされている
建て主の工事参加

CM分離発注方式の家づくりでは、建て主の多くが、自分の家の工事に参加していた。最も多いケースは木部の塗装工事で、次に多いのが壁の左官工事。さらに、タイル工事や電気工事などいろいろだ。

しかし、一般的な家づくりでは、ほとんどの場合、建て主の工事参加は閉ざされている。

「もちろん断ります。怪我でもされたら、たまったもんじゃありません。それに、手間がかかってしょうがありません。ご自分でなさっても構わないけど、わが社としては品質に一切責任を持てません。こう言えば、たいがい引き下がります。尤も、工事に参加したいと切り出す建て主など、ほとんどいませんけどね」と、某住宅会社の営業マン。

家づくりを検討中の建て主にも訊いた。

「工事に参加するなんて、考えてもみませんでした。素人の自分にどういうことができるのか、まったくわかりませんしね。専門家の指導がなければ、とても恐くて向かえません。それと、そんな相談を住宅会社にすると嫌がられそうで、ちょっと切り出せません。だけど、もし可能なら、そのような機会は二度とないでしょうから、是非やってみたいです」

このように、もし可能なら是非やってみたい、という建て主は潜在的に多くいるかもしれない。しかし、その要望をくみ取り応えようとしている住宅会社は、ほとんど皆無。だから、建て主の工事参加など、検討されることもないのが現実である。



CM分離発注方式では
3人に1人が工事に参加

CM分離発注方式は、見方を変えれば建て主自身が住宅会社のような立場となる。直に複数の専門業者に発注するから、原価もすべてわかる。

したがって、CM分離発注方式は、建て主の要望に対して基本的にすべて開かれている。そして、建て主の要望を満たす役割がCMr=設計監理者である。(住宅等の小規模建物では、CMrと設計監理者が兼ねるケースが多い)

工事の請負で収益を上げる住宅会社と違い、業務に対する報酬で働く設計監理者には、建て主が工事に参加する上での不都合は何もない。現に、CM分離発注方式の家づくりでは、建て主の多くが工事に参加している。

言うまでもなく、CM分離発注方式は建て主の工事参加を目指して生まれたものではない。建て主の要望を可能な限り反映させる手法として試みられたものである。それにもかかわらず、CM分離発注方式の家づくりでは、結果的に3人に1人の建て主が工事に参加している。

この事実は、潜在的に工事参加を望む建て主が多く存在することを示しているか、あるいは、たまたま工事参加を望む建て主がCM分離発注方式に辿り着いたということである。いずれにしても、工事参加を望む建て主とCM分離発注方式は、「極めて相性がいい」ということは確かだ。



じわじわ増えている
「シンプル族」の存在

三浦展(みうらあつし)さんの本で、「シンプル族」の存在を知った。表紙にこう書いてあった。

――――――
自動車販売は減っているが自転車は人気だ。
百貨店は苦しんでいるがユニクロは絶好調だ。
エコ志向、ナチュラル志向、レトロ志向、
和風好き、コミュニティ志向、
先進国より世界遺産、農業回帰・・・
新しい価値観が台頭してきたのだ。
シンプル族が日本を変える!
――――――

シンプル族は、エコ志向で、ナチュラル志向で、レトロ志向。自然や自然素材の物が好きで、プラスチックなど人工的な物や大量生産品はニセモノっぽいので、あまり好きではないという。

また彼らは、物をあまり買わないらしい。テレビをあまり見ないで、もっぱらインターネットで商品についての情報を集め、慎重に吟味し、比較考量し、十分に納得した上でないとなかなか物を買わないという。企業にとってはとてもやっかいな存在なのである。

以下、シンプル族の主な特徴を挙げる。



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CM分離発注の建て主と
シンプル族の共通点

シンプル族の存在に興味を持ったのは、CM分離発注の建て主と重なる点が多くあるからである。もちろんシンプル族の特徴といっても、本の中にあったように、現実に存在する具体的な個々人のことを示しているのではなく、頭の中でモデル化した人間であり、現実から抽象化した概念である。したがって、7割方は該当するが、他はバブリー族的な要素もある、というのが実際の人間だ。先に抜粋した特徴は、シンプル族の傾向性を示す物差しと思えばいい。

では、CM分離発注方式の建て主とシンプル族の共通点をいくつか拾ってみる。

「自分で手仕事をしたり、物を手作りしたりすることを好む。既製品を買うだけより、自分で手を加えたい、改造したい、自分が関与したいと思う」は、まさに先月号で紹介した建て主たちと重なるところだ。彼らは、自分の家の工事に深く関与したいと思い、塗装工事や左官工事など、自らできる工事に積極的に参加した。工事そのものを楽しむとともに、工事現場の職人たちとの関わりも楽しんだのである。

「エコロジーかつエコノミー(経済性)を重視する」という傾向性も興味深い。本の中にもあったが、シンプル族は、お金がないから倹約しているのではなく、不合理なお金を使いたくないだけなのである。合理的で納得できるお金を惜しんでいる訳ではない。(だから、CM分離発注の価値に気が付いたのだ!)

「もっぱらインターネットで商品についての情報を集め、慎重に吟味し、比較考量し、十分に納得した上でないとなかなか物を買わない」というところも、CM分離発注の多くがインターネットを接点に広がっているところと一致している。

「自然や自然素材の物が好き。プラスチックなど人工的な物、大量生産品はニセモノっぽいのであまり好きではない」という部分も、CM分離発注方式の家の9割方に、無垢の木を大胆に使う、漆喰や珪藻土を塗る、和紙を貼るなど自然素材を好む共通点が認められる。

他にも多くの共通点があるが、読者自身が自分の建物との共通点を探してみるのも面白いだろう。

※『シンプル族の反乱』/三浦展(みうらあつし)著/KKベストセラーズ/743円+税



建て主の作業日を
工事の工程に組み込む

先月号で紹介した建築士・田村洋一さん(群馬県/田村建築設計工房)は、積極的に建て主の工事参加を促している。建て主自ら楽しんで費用を浮かす。参加することで家づくりのプロセスを知る。職人たちと一緒に作業することの重要性を知る。新築時の経験が後で役立つ。など、良い面が多いという。

しかし、田村さんのように積極的に建て主の工事参加を進める建築士は少数派。実際は大半が慎重派である。

「以前、苦い経験をしました。建て主さんの希望で、左官工事(壁塗り)をセルフビルドしたのですが、会社勤めの建て主さんには予想以上にきつい作業でした。私も事務所のスタッフもできる限り手伝いましたが、予定より大幅に工期が遅れ、家づくりを楽しむはずが、結果的に苦しむことになりました。建て主さんの工事参加については安易に応じるべきではないと思いました」と、長野県でCM分離発注を手掛けるY建築士。

プロが施工する場合の作業時間は、いろんなデータから割り出せるが、建て主自身が施工する場合の作業時間に関するデータは極めて少ない。建て主の器用さ、飲み込みの良さ、意欲など、個人差も大きいと思うが、データがたくさん集まると、上記のような苦い経験は回避できるはず。

(ちなみにイエヒト9号では、自然系木材保護塗装に関る建て主の作業時間などを集めて掲載した。また編集部で5種類の自然系塗料を購入し、杉の板材に塗ってみた)

建て主の作業時間に関するデータがあれば、建築士(監理者)は工事の工程に組み込むことができる。建て主はどれくらいの時間を割くことができるか、そして、どのタイミングで施工に参加できるか。連休などを利用して、他の職人に迷惑がかからないよう、建て主だけの作業日を確保しておくことも可能だ。もちろん、建て主が完成・入居を急がなければ、ではあるが。



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掲載者 イエヒト編集室
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