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CCI 2009年11月号
  【第11回】『建て主と業者の間には 大きなギャップが存在する』

写真

『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第10回】
『建て主と業者の間には大きなギャップが存在する』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

■CM分離発注の建て主は、エコ志向でナチュラル志向。環境に対する意識が高く、自然素材を好み無駄使いを嫌う。既製品を買うより職人の手仕事が好きで、時には自分で塗ったり手を加えたりもする。

■エコ志向でナチュラル志向の人が、思いを実現しようとしてCM分離発注方式を求めたと思われる。というのが先月号の話。

■だが、それだけでも無さそうだ。ごく普通の建て主が、CM分離発注に出会って、人間が本来望んでいるエコやナチュラルの部分が引き出された。というのが今月号の話。

■設計施工一式で契約したらビニールクロスを選ぶ確率が跳ね上がり、CM分離発注で契約したら左官の塗り壁を選ぶ確率が高くなる。という推定である。少し飛躍しているかも。



建て主が選択権を持つと
面白い現象が生じる

CM分離発注方式では、建て主の意思が最大限に尊重される。建築材料や設備機器、それから個々の工事業者に至るまで、基本的にすべて建て主が選択権を持つ。(もちろん設計監理者と相談しながら進めるのではあるが。)

すると、どういう現象が生じたか? 

例えば内装の仕上げ材。やはり一般的な住宅と同じように、ビニールクロスを選択するケースが多いのか? 否である。

では、断熱材の種類。これは、グラスウールを選択するケースが多いのでは? 否である。

ならば外壁。きっと、窯業系のサイディングが多いのだろう? いや、これも否である。

ビニールクロス、グラスウール、窯業系サイディング。これらは、一般的な住宅で最も多く使われている建材である。これらの建材が多く使われるには、それなりの合理的な理由がある。価格と性能のバランスがいいと判断されたからだ。

しかし、CM分離発注方式の建て主は、これらの建材をあまり採用しない。何故だろう。おもしろい現象である。建て主が選択権を持つと、合理的な判断が働き難いのだろうか。

いや、そうではない。取材班が知る限り、CM分離発注の建て主は、建材や設備機器など、家づくりに関してよく勉強している。疑問点は納得するまで追求するタイプが多いのだ。

彼らがビニールクロスを採用しないのは、彼らなりの合理的な判断が働いている。一般的な住宅も分離発注の住宅も、どちらも合理的な判断が働いているのだ。

一方は住宅業者にとっての合理的な判断であり、もう一方は建て主にとっての合理的な判断である。主体者が、業者か建て主か。その違いである。しかしその違いが大きく、結果は真反対に出る。

考えてみれば、もともと業者と建て主は、利害が反する立場にある。当然といえば当然の結果かもしれない。



リアリティのある家づくりは
建て主の人間的な感覚が働く

CM分離発注方式が広まり始めた10年ほど前、マスコミの中には次のような見方をするところもあった。

建て主に見積りの原価を公開し、建材や施工業者を自由に選ばせたら、きっと際限なく安い方に流れていくだろう。すると、住宅業界に価格破壊を引き起こし、住宅の質が低下するかもしれない、と。

しかし、実際は逆の方向に作用した。多くの建て主は、価格よりも質を重視した。また、価格競争も、建て主のバランス感覚が働き、無理のない落とし所で決着している。建て主は、自分の家を、けっして際限のない価格競争に晒そうとはしないのである。

一人ひとりの建て主に焦点を当てると、極めて健全である。選択権を与えられても、できる限り自然素材を選ぼうとする人が多く、家づくりに関わる専門業者にも人間的な触れ合いを求めようとする人が多い。

それに比べ住宅会社の方は、下請業者や建材販売店に対して、まったく容赦がない。極限の価格を押し付けている。少なくとも取材班にはそう映る。

建て主が、建材の価格や施工の手間賃を知り、専門業者を知り、元請と下請の関係も知る。そして、家づくりの成り立ちを理解する。その意味は大きい。よく知ることによって、家づくりにリアリティが生まれる。そのリアリティが、建て主の人間らしさを引き出すのだ!



建て主と住宅業者の間には
大きなギャップが存在する



CM分離発注方式がリアリティのある家づくりだとしたら、設計施工一式方式は、バーチャルな家づくりだといえる。

仮にローコストを目指したら、とことん突き進む歯止めの無さがある。建て主には、住宅会社(元請)の顔しか見えないから、背後に存在する専門業者の痛みなど感じることはない。その結果、あくまでも価格ありきとなりやすい。

また、設計施工一式では、建て主がビニールクロスと漆喰を原価レベルで比較検討する、という機会はほとんど設けられない。まして、建て主が漆喰の材料を調達して、自分で塗ったらどうなるか、などという発想は始めから浮かぶ余地がない。

その結果、住宅業者に勧められるまま、漆喰塗の可能性が大いにあるにも関わらず「予算の関係でしょうがない」と、ビニールクロスを選んでしまう。(自由な選択のように見えて、実際は業者の誘導で選ばされている)

断っておくが、取材班は、ビニールクロスをやり玉に挙げる意図はない。建て主と住宅業者の間に存在する大きなギャップを説明する材料として、ビニールクロスがわかりやすいだけなのだ。

取材班の3名は、いずれも建築士である。かつて設計監理の現場にも身を置いた。その時も、それ以後の家づくりの取材でも、ビニールクロスが大好きという建て主に出会ったことはない。できれば自然素材系の壁、あるいはもっと高級感のある壁にしたい、というのが多くの建て主の気持ちだった。

しかし、設計施工一式契約の家づくりでは、建て主の本当の気持ちはなかなか反映されず、結果的にビニールクロスになる確率が極めて高い。おそらく90%以上がそうだろう。そこに、大きなギャップを感じる。

誤解のないように、もういちど断っておく。ビニールクロスが建材として相応しくないと言っているのではない。予算、性能、雰囲気など総合的に判断して、ビニールクロスが最適の場合もある。しかし、建て主がけっして望んでいないのに使われている。そのようなケースが如何に多いかを、ここで言おうとしている。



CM分離発注の事例を
詳細に伝えようと試みた『イエヒト』

日本で最も多い家づくりの方式は、設計施工一式請負方式である。この方法しか無いといってもいいくらい定着している。この方式は物を買う感覚に近いから、建て主にとってわかりやすい。

設計監理を分離する方式でも、施工を一式で請負うのであれば、まだわかりやすい。

しかし、分離発注方式となると、たちまち複雑になる。建築関係者ならすぐにわかることでも、建て主にとっては、やはり理解できないところがあるようだ。

ならば、CM分離発注の姿を具体的な事例で示そうと、取材班は雑誌『イエヒト』に取り組んだ。様々なケースを、できる限り詳しく正確に伝えるため、CM分離発注を行っていた建築士自身が全国各地を取材し、記事を書いた。

それでもやはり、建て主には伝わり難く、期待したほどの反応は無かった。逆に、建て主よりも、むしろハウスメーカーや工務店の建築士が反応した。

「そういうやり方が、建て主にとっても私たち建築士にとっても、理想的な家づくりに近いと思う。住宅会社で設計(あるいは現場監督)をしているが、できることならいつか自分もやってみたい」と。

建築士には、CM分離発注の利点がすぐにわかる。共通の知識と体験があるからだろう。しかし、建て主には、なかなか理解し難く伝わり難い。ここが、CM分離発注方式を日本の社会に定着させる上での大きな壁である。



CM分離発注の事例を
詳細に伝えようと試みた『イエヒト』

日本で最も多い家づくりの方式は、設計施工一式請負方式である。この方法しか無いといってもいいくらい定着している。この方式は物を買う感覚に近いから、建て主にとってわかりやすい。

設計監理を分離する方式でも、施工を一式で請負うのであれば、まだわかりやすい。

しかし、分離発注方式となると、たちまち複雑になる。建築関係者ならすぐにわかることでも、建て主にとっては、やはり理解できないところがあるようだ。

ならば、CM分離発注の姿を具体的な事例で示そうと、取材班は雑誌『イエヒト』に取り組んだ。様々なケースを、できる限り詳しく正確に伝えるため、CM分離発注を行っていた建築士自身が全国各地を取材し、記事を書いた。

それでもやはり、建て主には伝わり難く、期待したほどの反応は無かった。逆に、建て主よりも、むしろハウスメーカーや工務店の建築士が反応した。

「そういうやり方が、建て主にとっても私たち建築士にとっても、理想的な家づくりに近いと思う。住宅会社で設計(あるいは現場監督)をしているが、できることならいつか自分もやってみたい」と。

建築士には、CM分離発注の利点がすぐにわかる。共通の知識と体験があるからだろう。しかし、建て主には、なかなか理解し難く伝わり難い。ここが、CM分離発注方式を日本の社会に定着させる上での大きな壁である。





本当は好きでなかった
72億uの壁

壁がある。あんなに一生懸命やったのに、CM分離発注を伝えるのはやはり難しいことだ。と、弱気にさせる壁がある。この壁を、どうやって乗り越えるか……。

それはともかく、現実の壁がある。家の中にある壁である。本当は、建て主が望んでいなかった壁。知恵を出せば左官の塗り壁にできたかもしれないビニールクロスの壁。一体、何uあるのだろうか。割り出してみた。なんと、72億uもあった。

計算の根拠を示す。あまり厳密に計算しても意味がないので、次のように割り出した。数値はすべて国土交通省の統計資料を基にした。

2003年の時点で、4,700万の世帯数に対して、住宅のストック数は5,400万戸もある。居住者のいない住宅が700万戸、全体の14%もある。

さて、古い家は左官の壁が定番だったが、いつの頃からかビニールクロスが定番となった。どれくらい前からだろうか。とりあえず、30年前とする。

過去30年間につくられた住宅の数は、ざっと4,000万戸。年間平均130万戸強である。この中には、戸建て住宅、分譲マンション、賃貸住宅が含まれている。

そこで、1戸当たりの床面積を80u、壁の面積を200u、そして壁の90%にビニールクロスが貼られていると仮定した。すると、次の計算式で割り出すことができた。

 4,000万戸×200u×90%=72億u

72億uの壁。ちょっとピンとこない数字であるが、この壁の大多数の所有者は、本当はビニールクロスが好きではない人。できれば左官の壁などにしたかった人である。



「壁塗り大作戦」で
壁を乗り越えるのだ!

取材班は、考えた。72億uもの壁がある。所有者も、できれば変えたいと思っている壁。何とかならないか。考えていると閃いた。壁の塗り替えだけのCM分離発注方式。

家全体だと、複雑すぎて理解し難いが、壁を塗り替えるだけなら、CM分離発注がす〜っと理解できるはず。全体は部分から成っているが、部分にも全体が含まれているのだ!

CM分離発注方式の、理解の入口となる「壁塗り大作戦」。これを決行しようと思う。

建築士と左官職人が協力して行う、壁塗りだけのCM分離発注方式。たかが壁塗りといえ、CM分離発注方式では、いろんなパターンが考えられる。知恵を出せば、500円/uから可能となる。

その具体的な方法は? そして壁の所有者は、どのような反応を示すのか? それは次号で。



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掲載者 イエヒト編集室
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