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CCI 2009年9月号
  【第8回】 『建て主の工事参加』

写真

『CM分離発注の実践現場から』
 〜建築士へのレポート/各地の事例を徹底取材〜

【第8回】
『建て主の工事参加』

取材・記事 山中省吾・武藤昌一・藤井旭

雑誌『イエヒト』編集部・特別取材班

「完成したとき、達成感というより、ああ終わっちゃったんだと、むしろ寂しかったですね。建て主でありながら、職人さんの仲間入りができるのが、すごく楽しかったです」

こう語るのは、「無垢に住まう家(群馬県)」の建て主、松田さん。分離発注の家づくりでは、建て主自ら、工事に参加するケースが多い。「イエヒト」編集部がこれまでに取材した事例のうちで、何らかの形で工事に参加した建て主は、ざっと3件に1件の割合。

建て主自身が積極的に望むケースや設計事務所が勧めるケースなど、きっかけはいろいろだ。

今月号は「建て主の工事参加」をピックアップした。



地元の自然素材を生かした
「古民家風のエコ住宅」

栃木県、長谷川さん夫妻。初めは、ハウスメーカーで建てようと思っていた。しかし、3歳の娘の喘息の発作をきっかけに、「家の素材」にも目を向けるようになった。そして最終的に、できるかぎり地元の自然素材を生かして「古民家風のエコ住宅」を建てた。

基本構造部は県北の木材、玄関や土間は宇都宮の大谷石、大黒柱は鹿沼の杉、壁には粟野町の手漉き和紙、洗面ボールは益子焼きで、というふうに。

長谷川さん夫妻が自ら行った工事は、床の塗装、壁の漆喰塗り、壁の手漉き和紙張り、そして家族で合作した益子焼の洗面器である。そのうち最も骨が折れたのは、壁の漆喰塗り(110u)で、次に床の塗装(114u)。壁の手漉き和紙張り(19u)は、面積が小さかったので思ったより楽だったという。

「素材選びも工事の参加も、私たちが強く希望したのですが、佐々木さん(佐々木設計企画)のフォローがなければ上手くいかなかったと思います。予算は、予定より少しオーバーしましたが、同じ金額なら最上質のものを手に入れることができたと思っています。家を建てた友人は、もう一度やり直したいと必ず言いますが、私たちにはまったくそれがありません。この家にいること自体が楽しいのです」



柱・梁・などの木部を
ほとんど自分で塗った

「思ったより大変で、途中で音をあげそうになりました。だけど最後は、あんな楽しいこと、他の人に依頼するのはもったいないと思いました。朝、工事現場を覗いてから出勤し、帰るとまた現場へ行きました。職人さんと仲良くなり、いろんな技を教えてもらいました」

こう語るのは、30代の建て主、Tさん。Tさんは、家の柱・梁などの木部を自分で塗った。その内訳は、柱(杉・檜)32u、梁(米松)37u、幅木(杉)86m、建具枠(杉・檜)238m、壁の一部(杉板)31u。

Tさんは、大工工事に追われるように、すべて現場で塗った。費やした時間は、延べ80時間くらいだという。出勤前の朝1時間、仕事帰りの夕方2時間、そして休日の朝から晩まで費やした。それでも時間が足りず、工事を数日間止める羽目になり、大工の足を引っ張ってしまうことに。

Tさんは、家が完成してからウッドデッキやベッドなどもつくった。



家づくりの楽しさを
知ってもらいたいから

冒頭で紹介した、「無垢に住まう家」の建て主、松田さん。田村洋一さんが設計・監理した家を数件訪問した。どの建て主も家づくりの体験を熱く語ってくれた。初めは、どうしてあんなに熱く語るのか不思議だった。しかし今は、松田さん自身が熱く語っている。家づくりの楽しさをしってもらいたいのだ。

松田さんは、30代の公務員。日曜大工などほとんどやったこともないが、田村さんに勧められて、家の塗装を自分でやることにした。塗装などの工事をできるかぎり建て主にやってもらうのは、建築士・田村さんの方針である。

「木を持ったり材料に触ったりしながら、自然と職人さんの大変さを学んでいきます。家って、こんな順番でできあがるんだ、と知ることは、住む人にとってとても大事なことです。新築のときに経験したことは、後で必ず役に立ちます」と、田村さん。

田村さんは、まず木部の塗装工事を勧める。比較的簡単で安全にできるからだ。普通の建て主はこれで手いっぱいになるが、やる気と工期を長く取れる建て主には、漆喰塗などの左官工事も勧めている。



多くの建て主が工事参加を
望んでいるのかもしれない

神奈川県の建て主、中島さん。230uの珪藻土を自分で塗ることにした。しかし、実際に自分で塗ったのは約3割程度。残りの7割は、いろんな人が手伝ってくれた。

つまり、こういうこと。中島さんは、壁を塗る前にブログで呼びかけた。「塗り手募集!」。すると、7人が手を挙げ、手伝いに来てくれた。これから家をつくる人たちが、参考のために経験しておきたいというのだ。

自分の家の工事を、できるところは自分が行う。考えてみれば当たり前のようでもあるが、現実は、なかなかそういうふうにできない。多くの住宅会社は、建て主の工事参加を嫌う。建て主は、自分の家であるにもかかわらず、思い通りにならないのだ。

しかし本当は、多くの建て主が、できることなら自分の家の工事に積極的に参加することを望んでいるのかもしれない。何しろ、他人の家の「壁塗り募集!」に馳せ参じるくらいだから。

次回、この辺を考察してみるのもおもしろい。



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掲載者 イエヒト編集室
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